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『Do or Die―Final R―』 深海から浮き上がる気泡のように、真っ黒だった意識がゆらゆらと引き上げられていくのを感じた。 「…………」 深い眠りから目覚めたウェザーの視界は、未だぼんやりと霞がかかっており見えるものは白くぼやけていた。 そこに、鮮やかな緑が入り込む。 「うわっ!あんた起きたのかい?」 存分に驚きを含んだ声音につられてか、視界も徐々にハッキリとしてきた。そうしてようやく視界に移っていた鮮やかな緑は、フーケの髪色だと気付く。 「……ここは?」 「安心しな。あたしの部屋だよ」 そうかと呟いてウェザーは体を起こそうとした。が、腕に力が入らずにベッドへ逆戻りとなってしまう。 体を起こす。たったそれだけの行為なのに、ウェザーは酷い貧血に襲われた。 「こらこら、無茶しなさんな!あんた死にかけてたんだからね!」 「く……俺はどうなっていたんだ?」 持ち上げてみる腕は重く、意識しても震えが止まらない。意思に反して体が思うように動かないもどかしさが、蟻の様に全身を這い回る。 「貴族街の外れの空き地でぶっ倒れてるのを見つけてね、あたしが運んできたのさ。衛士隊やら警邏隊なんかが街中にいたもんだから、見つかったら面倒だろ?」 色々とさ、と付け加えるフーケ。 「あんたがそんなになるなんて、よっぽどの敵だったんだねぇ。敵もスタンド使いだったのかい?」 「ああ。それも暗殺者のような能力だったな。姿を見せない、恐るべき敵だった……」 「でも、勝ったと」 「……まあな」 ウェザーはそう言ったが、小骨が喉に刺さったような、奇妙な引っ掛かりを覚えていた。 出血量も限界だったが、何より血中の鉄分を奪われたのは致命的だと思っていたからだ。 魔法で傷は治せても血液や、その鉄分まで元通りに出来るとは思っていない。輸血やビタミン剤なども、ウェザーの元いた世界ですら完全ではないのだ。 「でも、最初に見つけたときはもうダメだと思ったわよ。体中傷だらけで、額なんかバックリ裂けてるんだから!急いでゴーレムで知り合いのところに運んで、突貫で治療よ。 知り合いっても、貴族崩れの『水』のメイジでね、今はそれで怪我を治して生計立ててるみたいだけど――そういえばそいつ、傷の深さの割りに出血が少ないとか言ってたけど……」 「血……だと?」 「それも『ウェザー・リポート』の力なのかい?」 ウェザーはゆっくりと首を振った。 「ふぅん……ま、それでも秘薬を奮発しなきゃならなかったんだから、少しは自分がどんな状況だったかわかった?」 「世話をかけたみたいだな。しかし、よくお前が金を出したな。高いんだろう、秘薬って?」 申し訳なさそうにするウェザーに満面の笑みで返し、フーケは何かの袋をベッドの上に投げ出した。ボスッと重い音がして、その中身があらわになる。煌びやかな宝石たちが。 「これは……」 「組織の奴ら、結構溜め込んでたみたい。せっかくだからいただいてきたわ。それでも結構重かったから、かなり街に《ばら撒い》ちゃったんだけどね」 「あの中でよくもまあ……」 「あたしゃ盗賊『土くれ』のフーケ。転んでもただじゃあ起きないのさ」 いつぞやのモット伯邸でもくすねていたことを知らないウェザーは、ここで改めて感心させられるのだった。 「それでもしばらくは安静にしてなきゃだめなんだからね」 「そうか……じゃあ、組織は……」 「ああ。トリスタニアを完全に包囲した衛士隊の目を逃れられた奴は一人もいない。本部も各地のアジトも検挙したみたいで組織は壊滅、残ってた資料から内通者もわかって、《一応》の解決ということにはなってるよ」 フーケはそう言ったが、何か引っかかる物言いだとウェザーは尋ねた。 「《一応》――とはどういうことだ?」 「……組織のボスがまだ見つかってないのさ。手に入れた計画書や情報によると、あたしが倒した男がボスってことになってるし、それで解決に向かってるみたいだけど……あたしにはそうは思えない。あの男がここまで大きな組織を作ったとは思えないんだよ」 それに、と付け加えてフーケはウェザーを窺うように続ける。 「だとしたらあんたは一体何と戦っていたっていうんだい?」 「何?俺を助けたとき、横にぶっ倒れていた男がいただろう。そいつがボスのはずだ」 「いや……あそこに倒れていたのはあんた一人だったけど?」 その言葉にウェザーは目を見開かなければならなかった。様々な考えが一度に頭を過ぎる。 ――倒したと思っていたボスは生きていたのか?いや、『ウェザー・リポート』は完全に体を貫いていた。傷は胸にまで達しているだろう。 ――では仲間が助け出したのか?それも怪しい。衛士隊の包囲網の中を、瀕死の男を連れて歩くのは無理だ。姿でも消せるのならば別かもしれないが――それこそ、あの黒衣の男のように。 険しい顔で考え込むウェザーを見かねて、フーケが肩を叩いた。 「でも、あんたは勝ったんだろう?やっぱり大したヤツだよあんたはさ!」 「…………」 「ど、どうしたのよ。もしかして肩痛かったとか?」 「いや、俺は勝ったのか……ってな。どうにも、勝った気がしない。どころか、もしかしたら俺は敵に情けをかけられたのかもしれない……」 あの男は生きていて、倒れた自分に血を戻し、トドメも刺さずに去っていった。だとすれば、不気味過ぎるのだ。あの男が自分を助ける理由などないのだから。 ウェザーの脳内は理解不能の四文字に埋め尽くされてしまった。 俯き暗くなるウェザーだったが、その手にフーケの手が重なる。冷えていた手に人肌が温かく感じられた。 「あんたは生きて帰ってきた。それでいいじゃないか。あんたの自慢のご主人様もその仲間も、アニエスだって衛士隊だっているんだ。もう二度と奴らをこの国でのさばらせたりなんてしないさ。あんたに力を貸す人間は大勢いるよ」 考え込むウェザーに気を使ったのだろう。明るくそういうフーケの気遣いが、ウェザーはただありがたかった。 「……アニエスのことを頼るなんて、随分仲良くなったみたいだな、お前ら」 「はぁ?私はただ自分が動くのが面倒だからあいつらにやってもらおうと……」 何事か言い始めたフーケだったが、くつくつと笑うウェザーに気が付いてその額を小突いた。 「その様子だとアニエスのほうも無事だったようだな。今はいないのか?」 「アニエスならとっくに仕事に出たよ。肋骨折れてるってのにさ。そのまま飛び出しそうだったもんだから、それだけは治しておいたけどね。カッフェの方もこの街のみんなの協力で守れたって。全員軽傷だし、無事じゃないのはあんたくらいのもんだよ」 そう言ってフーケが鏡を投げてよこしてきた。そこに移るウェザーの額には生々しい傷跡が残っていた。 「それだけはどうやっても消えなくてね。スタンドの力と魔法が反発でもしてるのか……まあ、帽子を被れば隠れるし、傷自体は治ってるみたいだから、もう少し休めば動けるみたいよ」 「そうか……」 何か憂いを感じさせるように傷をなぞるウェザーに気を使ってか席を立つ。 「腹減ったろ。もう夕方だし、二日も寝っぱなしだったんだ。待ってな、食べる物を何か持ってくるよ。お粥でいいよな?食べやすいし」 《お粥》という単語にウェザーの肩が震えた。 「いや……お粥はちょっと……なぜかあまり見たくない気が……」 「いい大人が好き嫌いするんじゃないよ」 フーケは笑って部屋を出て行った。お腹が空いていたのは事実なので、食事が取れるのは素直に嬉しかった。 開いた窓から一人残されたウェザーの耳に外の音が届く。穏やかな賑わいを知らせる喧騒と、人々の生活を示す匂いが、何よりもあの夜が終わったことを教えてくれた。 「力を貸す、か。確かに、今回もこいつには助けられたな」 重い腕を上げて右手をかざす。 ガンダールブが無ければ今回は死んでいただろう。重い体に鞭打たせ、死力を振り絞らせたのもこの文様だった。 これを与えてくれたご主人様にはキスしてやりたいくらいだと、桃色の髪を揺らす少女の顔を思い浮かべる。 そして同時に、ある言葉を思い出す。 「『どんなに惨めでも帰ってこい』……随分と難しい注文を受けてしまったものだ」 それでも自分は生きて帰ってきた。《やる》か《死ぬ》かのあの夜を、生きて戻ったということは自分は《やった》のだろう。 外は夏だが、窓からは心地いい風が吹いてきた。 ◆ トリステイントとガリアの国境近くに豪邸が一つあった。 中にいるであろう人物の身分を現すような荘厳な建物と、厳重な囲い。その門前には屈強な男が数人、甲冑を見に纏いまさに番人といった出で立ちで立っている。 既に空には月が昇り、夏だというのに涼しい風が吹いていた。人々の喧騒も無く、静寂があたりいったいを包んでいた。 その屋敷の庭先に椅子が一つ。そこに一人の男が座っていた。 その容貌は三十歳前後だろうか、眩い美貌に青い髪と髭が特徴的である。 片手には年代物のワインを持ち、まるで無音を楽しんでいるかのように目を瞑り耳を澄ましている。 その耳に、男のものとは別の声が届いた。しかし姿はない。 「随分とのんびりしているようだな……」 「君か……相も変わらず心臓に悪い登場の仕方だな」 男はそう言ったが、その様子には驚愕など一切感じられない。 「側に護衛も置かずにバカンスとは、余裕だな」 「君のように優秀な部下がいるおかげだよ。リゾット」 リゾットと呼ばれた男がその姿を《現す》。闇からにじみ出たかと見紛うように、その姿を《現した》。 月光の中でさえその姿が捉えにくい黒のコートに、錯覚を起こしそうになる白黒のストライプのズボン。何より印象的なのは黒い頭巾を被ったその顔に、鬼火のように怪しく光る目だった。 「しかし、護衛なら最低限の人数だがいたと思うのだが……」 「木偶の坊を護衛と呼ぶのであれば、成る程、奴らも立派な護衛だろうな」 男の言うとおり、この屋敷には護衛として連れてきた者たちが配置されている。屋敷の入り口や廊下、特に門には特別手練を配置していた。 だが、門番達は動かなかった。不審者が屋敷にいるというのに、直立不動の姿勢のままただそこに立っているだけである。 しかし、それも仕方の無いことではあった。その門番達は既に事切れていたからだ。直立不動の姿勢のまま、何が起きたのか理解する間すらなく、一瞬にして絶命しているのだ。 よくよく見れば、門番達の纏っている甲冑の額と胸の部分が凹んでいるのが見えただろう。そしてその甲冑をはずしたのならば、その内側が棘の様に尖り、脳と心臓を貫き赤く染まっているのが見れたことだろう。 そして敷地内に配置されている者も誰一人このリゾットの侵入に気付けないでいるのだ。 「何人か始末してしまったが、構わないだろう?」 それに男はワインを揺らして答える。 リゾットの言葉からは、既にバカンスを楽しむ余裕などないであろう不穏な空気が匂い立つというのに、この男にはまるで動揺というものが見受けられなかった。 ――違うな。 リゾットは思う。この男からは感情というものが感じられないのだ。 仕事柄多くの人間を見てきた。常に《ハイ》な奴やキノコが生えそうなくらいに暗い奴。感情の起伏が乏しい奴だっていた。 だが、この男は何か違った。 リゾットの思考を余所に男は尋ねる。 「しかし、君には重要な任務を与えていたはずだが……本来なら、そろそろあちらの方角が明るくなっていると思うのだが?」 男が指差した方角はトリステイン。それも、首都トリスタニアがある方角である。 「……組織の中に裏切り者がいた。支部で問題を起こし、俺がそれの解決に当たっている間に乗っ取ったようだ」 「ほぅ……?」 「貴様が寄越した男、J・ガイルといったか。ふっ、俺の監視のためにつけた犬に手を噛まれるハメになるとはな、お笑いだ」 「ふむ……あの男が……そうかそうか」 意外だった――というよりは、そういうものなのかと納得するような調子だ。 リゾットはまたも奇妙な感覚を覚える。 「……不可解だな。計画の急進によってトリステインに情報は漏れ、組織自体も取り締まられた。武器から麻薬まで全て押収。この件を機に危険分子は一掃、トリステイン王宮の求心力は上がり結束は固くなった。 ……出来すぎだな。お前の計画は水泡に帰し、ただ徒に敵国を強くしただけだというのに……お前の感情が見えないのは、なぜだ?」 リゾットの問いに、男は目を見開いた。丸くなった目は、どこか子供のそれを想起させる。 「残念だとは思っているさ。だがまあ……天気のようなものだ。朝起きて空を見る。曇っているのを見て《今日は雨が降る》か《この後太陽が覗く》かを見るような感覚でいい。 子供の頃、靴を投げてその表裏で天気を占ったことがあるだろう?当たるも八卦当たらぬも八卦という奴だな。何より、ゲームの相手は強い方が燃えるじゃないか」 さも当然のように言ってのける男に、リゾットの口は思わず開いてしまっていた。 「貴様の《地位》からは到底吐けるはずのない言葉だな」 「だろうな。だから皆俺のことを《無能》と呼ぶ」 「これだけ大掛かりな計画を企て、最新の技術を取り入れて尚無能とするのならば、そうなのだろうな」 リゾットは知っていた。この男が無能などではないことを。 リゾットは感じていた。この男の不気味さを。 だとすれば、この男のこの余裕は一体何なのか。まるで暗闇を掴む様な、手応えのなさをリゾットは感じ続けている。 「だが、まあよかったよ。君は捕まらなかったようだからね。君とはまだ話をしたいと思っていたんだ、リゾット」 「……俺を処罰するんじゃないのか?今回の作戦の責任者は俺だ。裏切りがあったとはいえ、任務失敗の責は俺にある」 「ああ、そんなことはどうでもいいんだ。それよりも俺は君と話がしたい。最初に会ったときは死人のようだった男が、今はまるで違う印象を受ける。俺には無い《何か》を君は知っているのではないか?俺はそれが知りたい」 「それを知ってどうする?」 「どうする?どうもしない。知るだけだ」 男は続ける。 「何と言うべきかな……そう、俺は君に興味がある」 リゾットは怪訝な表情で返すが男に気にした様子は見受けられなかった。 「《宝石を持っていた貴族を乞食が襲い宝石を奪った》。どう思う?おれは乞食を責めるつもりはない。それが摂理だからだ。人は己の持っていないものに惹かれる。そういうものだろう?」 それはつまり、この男の求める《己の持っていないもの》が意味するところを示しているのだ。 「持たざるゆえの強欲か……史事においてさえ、未だ世界を手に入れたものはいないぞ」 「過去の話に興味はない。だから未来の話をしよう」 そう言って男は笑う。その笑みはまさに無垢と呼ぶに相応しかった。 「俺はお前のことが気に入った。お前が望む報酬で飼ってやってもいいぞ」 男の言葉にリゾットは自らの首をなぞる。 そこに何も無いことを確認するように。 「それは無理だ。お前と会ったばかりの――魂のない俺だったなら、ただ従う兵隊としての、犬としての生も受け入れただろう。だが俺は生き返った。だからお前を許すことは出来ない……」 温厚なはずの犬が突如牙を剥くように、内に秘めた激情が爆発する。 「貴様は《俺達》の誇りに首輪をかけたッ!《俺達》は闇に生き死を平等に振りまく暗殺者だッ!《俺達》を飼うことは誰にも出来ない。神だろうと!帝王だろうと!貴様だろうと!」 気炎を吐き出してリゾットはナイフを作り出す。素早く静かに。そしてその柄を掴み、しなやかに正確にその切っ先を男の喉に向ける。 冷たい刃がその白い喉を裂かんと放たれる瞬間、リゾットの手が弾け飛んだ。 続けざまに腹部と胸を強い衝撃が襲った。横合いから殴りつけられたかのようにリゾットが飛ぶ。 男は表情を変えない。 だがリゾットは笑う。 倒れ行く最中、己の肉体が、弾けた血が、男に向かって飛ぶのを見たからだ。 しかし、その血液も男の体に届くことは無く、その手に持つワインの中に沈むに留まった。 リゾットが倒れるのを待って、男は手を上げた。 二人のいる場所より遠くの木の上に銃士がいた。その手には、かつてアンリエッタを狙った銃が握られている。だが、今回は壊れることなくその役目を果たしていた。 銃士は男の指示によりその筒先をリゾットから外す。 仰向けに倒れたリゾットの、その体を覆っていたコートがはだける。 男はその姿を見て、初めて驚愕と呼べる感情を見せた。 「リゾット……お前……既に」 リゾットのその体には空洞が空いていた。恐らくは計画の最中に付けられた傷だろう。腹部から胸部にかけて、まるで抉られたような酷い傷が走っているのだ。 血などとうに流しきっていたのだろう。どう考えても、人間が生きていられる損傷ではない。 だとすれば、なぜリゾットはここまで来て、なぜ男と対面したのか。 なぜ―― 「なぜだ?」 「言ったはずだ……貴様は《俺達》の誇りに首輪をかけた……それは、どうあっても許しては置けないことだ」 憎悪が己を動かしたのか。誇りが己を動かしたのか。 それはリゾットにさえわからなかった。 わかっていたのは己がこの世界で最期に為すべき事。 誇りを取り戻すための戦い。 「貴様のスタンド……ではないな。なぜ動ける」 「さあな……真夏の夜の夢だとでも思ってくれ……」 吐き出す血も無いのだろう。咳き込むことも無く、穏やかな表情でリゾットは言う。 男はリゾットの横に腰を下ろした。 リゾットの血が溶けきらずに漂うワインを月にかざして眺めている。 その様は、まるで道端で見つけた綺麗な石を、目を輝かせて眺め続ける少年のようだった。 「解せぬ」 しばしの後に、男はそういった。 「俺には到底理解できない。だがそれゆえに惹かれるな」 それから男はリゾットに向けて手を差し出した。 だが、リゾットは夜空に浮かぶ月から視線を外さない。 「改めて言う。俺と来い、リゾット。俺には無いその《誇り》が俺は欲しい。俺はお前が欲しい」 その言葉に裏は無く、邪気も感じられない。 本当に、本心からの言葉なのだろう。 ――この男の為す事の結末を見たい。 僅かに、リゾットの心が揺れた。 だがその程度の揺れでは揺るがない思いがリゾットにはある。 「すまんな。これから仲間と地獄の縄張り争いをしなくちゃならないんでな……」 すると途端に男はその表情を暗くする。 子供が欲しいおもちゃを手に入れられなかった時のそれだ。 「ではお前はこのまま死ぬんだな……?」 「ああ……だがただでは死なねえ……」 その瞬間、ワインの中に漂っていた血がその形を針に変え、グラスを貫いて男の眉間を捉える。 完全な不意打ちに、銃士の反応は遅れていた。 だが、その針が男の脳に届くことは無かった。 まるで瞬間移動でもしたかのように、リゾットの目の前から消えたのだ。 リゾットは「まさかッ!?」と叫びたかった。だが、先の『メタリカ』が正真正銘最後の一撃だったのだ。既に言葉を発する力さえ残ってはいない。 そしてダメ押しの銃弾がリゾットの頭を貫いた。 沈み行く意識の中、リゾットは男の顔を見た。 だが、そこには闇しかなかった。光さえ吸い込む深い闇。 ――この男は虚無だ。轟々と音を立てて全てを吸い込むドス黒い空洞。虚無は何もない。 ブラックホールはあらゆるものを吸い込む。その善し悪しに関わらず。 そしてこの男の本質もそれだろう。 その懐に収まるのであれば、害悪であろうと受け入れる。それは恐らく、己の死さえも。 リゾットは最期に思う。 俺と戦ったあの男は、この先も果たしてあの国を守りきれるだろうか。《誇り》に気付かせてくれた礼に血だけは戻してやったが、その先は責任が持てない。 何より、この男の懐には、既に得体の知れぬ力が集まっていることだろう。 だがまあ、どちらが勝とうとどうでもよかった。肩入れする気も無い。 俺は俺達チームの味方だからだ。 ◆ 男は動かなくなったリゾットの横に座ったままだった。ただ先ほどから眉間をなぞり続けている。 そこに銃声を聞きつけた護衛の兵達たちがようやく駆けつけた。 「も、申し訳ありません……」 「ああ。申し訳はいい」 男はそういうと立ち上がり、屋敷の一角を見た。 小さな影が消えるのが見えた。 「余計なことを……」 「は?」 「なんでもない」 そう言って振り向いた男の目に飛び込んできたのは、兵たちがリゾットの死体を引きずろうとしている光景だった。 途端に男は兵に怒鳴りつける。 「やめろ!その男にそんな扱いをするんじゃあない!慎重に運び丁重に埋葬するんだ!」 男の言葉に兵たちは戸惑った。 よもや己の命を狙った賊を、丁重に弔えなどとは思いもしなかったのだから。 だが、兵たちは小さく溜め息を吐いてそれに従った。 諦めと侮蔑を含んだ溜め息。 「了解しました。ガリア王ジョゼフ様」 兵たちが去り、再び一人になった男――ジョゼフは再三額をなぞり考える。 なぜ俺はこんなにもあの男に拘るのか。 なぜ俺は命が助かったのに嬉しくないのか。 俺はリゾットに殺されたかったのか? あるいは―― 「死ねるのならば誰でも……か?」 そう呟いた男の顔に、感情は宿っていなかった。 「――計画は失敗だ。だかプランに変更は無い」 誰かに話しかけるように、だが一人でそう呟いて、男は屋敷に戻っていった。 夏だというのに涼しい風が、その後に吹いた。 To Be Continued…
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今日この日…… アカデミーの手によって、ルイズと才人の二人は死を迎えた。 ……そこは、随分と柄の悪い酒場だった。 並べられたテーブルや椅子は傷や汚れのない場所を探すほうが難しいし、立地条件も貧民街のど真ん中。客層も全うな商売の人間は一人もおらず、犯罪者か傭兵ばかりだ。 だれそれが死んだだの、だれそれを殺しただのと、交わされる会話もひたすら物騒だった。 地下にあるため窓などは一切なく、漂う空気には陰気なものが混ざり、殺意や敵意が入り混じっている。 だが、静かだった。テーブルの一つ一つにサイレントがかけられているのだから当たり前だが、それを差し引いても静か過ぎた。 普通に柄の悪い酒場のような喧騒とは無縁の世界……ここにいる人間は全員が全員一流以上の犯罪者であり、彼らの御用達という事で有名な酒場だった。 酒場では常に何らかの取引や商談、情報のやり取りが行われており……聞き耳を立てただけで耳が切り飛ばされ、盗みを働けば腕が飛ぶ。 下手に騒いでそれらを妨害しようものなら、心臓と頭にいくつもの穴を開ける事になるだろう。そういう物騒な場所だった。 お互い干渉せず、干渉されず。そんな暗黙の了解の下に成り立つ、稀有な場所だった。 その静かな店の片隅で。 イカシュミ・ズォースイ……リゾット・ネェロは人を待っていた。 杖を腰に下げ、パッと見質素ながら高級な服に身を包みその姿は、この店の客層を占める物騒な御歴々の食指を刺激せずにはいられなかったが……からむ人間は一人もいない。 物騒な人間は、その性質ゆえに同類をかぎ分ける能力に秀でる。その彼らの本能は、リゾットがただの貴族ではなく、自分達と同じ側の生き物だと感じ取っていたのだ。 それもこの店の客層にも滅多にお目にかかれないレベルの、生半可な軍人や傭兵では絶対に発する事の出来ない気配だ。 居並ぶ『同業者』達は、男が目を見張る美女を見るかのように、リゾットの一挙一動に注目していた。昨今のきな臭い情勢の中では、裏の世界でも実力者は引く手数多だ。 あわよくば、自らの仲間か部下にできないかと言うぎらついた欲望に晒されたが、リゾットは頓着しなかった。 ただ、無言で手にしたグラスを傾けるだけである。 「よぉー! イカシュミ。待たせたな」 酒場の静寂を引き裂き、取引のノイズとなる大声が酒場に響き渡り、その視線の主に視線が集中する。 皮製のブーツにジャケットと言う、かなり変わったで立ちの男だった。凛々しい顔立ちに整った目鼻……完璧とは行かないまでも、色男で十分通じる人相である。 『騒音排除』の為に雇われた用心棒は、静かに自分の武器に手を当てた。 すぐに攻撃はしないが、『次』があったらすぐさま攻撃すると言う合図だ。 だが……果たして攻撃したところで勝てるかどうか、はなはだ疑問だった。 「静かにしろ」 「……とと、悪ぃな」 リゾットの静かな忠告に、来訪者は頭を掻いた……その動作に用心棒たちに対する頓着は一切感じられない。 無視しているのでもなく、気付かないのでもなく、気付いた上で脅威にならないと判断した上での態度だった。 来訪者はリゾットと向かい合う形で座り、注文をとりに来たウェイターにワインとチーズを注文してから、改めて口を開いた。 「久しぶりだな。イカシュミさんよ」 「……その呼び方はやめろ」 「なんだよ。似合ってんのによぉ……『イカシュミ・ズォースイ』! ンッンー~、いい名前だなこれは!」 「……早く本題に入れ」 にたにた笑顔を絶やさない来訪者に、リゾットは殺気すら滲ませて先を促した。 常人なら息を呑むような殺気を当てられても、来訪者は臆さず笑顔を絶やさず、本題に入った。 「『博士』はあんたらの言い値でブツを買い取るってよ。金は近日中に用意できるから、そちらの準備が出来次第取引に移りたいそうだ」 ウェイターが持ってきたワインをグラスに開けて、来訪者は一旦手を組んだ。 ハルケギニアには存在しない宗教の作法で祈りをささげる男の姿に、リゾットは何も言わない。 「――最近、昔の相棒が捕まっちまってな。二度と会えねーだろうから、一応」 聞かれてもいない事に答えて、ワインを煽ってチーズをつまむ……店の雰囲気にそぐわない、貴族が食べるような一級品の代物である。 「……何度も言うが、ブツの売買は別の仲間が担当している。今連絡を取っているところだが……」 「わかってるわかってる。先に買い手がついてるかも、ってんだろ? そんなの耳にタコが出来るほど言い聞かせてるさ。 ……その時は相手の倍額出す準備があるってよ。呆れた事に」 「……随分と金回りのいい事だな」 「最近、大口のパトロンが見つかったんでな」 言って、笑いをかみ殺す男。脳裏をよぎったパトロンの姿があまりに滑稽だったからだ。 アカデミー暴走派にとって致命的となる不正の証拠を握り、『ばらされたくなければ一枚かませろ』とお約束な脅迫をしてきた相手なのだが。 他の連中は兎も角、『博士』の方は呈のいい貯金箱としてしてしか見ていない。しかも、借金の名目で金を出させるだけ出させたら、とっとと始末してバッくれる腹積もりなのである。 相手が掴んで有頂天になっている証拠の隠し場所まで把握済みであり、その気になればいつでも相手を処分する事が可能だった。 ……にもかかわらず勝ち誇った相手の顔と言ったら! 「ともかく、『博士』は本気でそいつを欲しがってるぜ」 リゾットは無言だった。あくまで用心深いその様子に、男は感心させられる。 先程から『仲間』とか『ブツ』とか、持てる情報を抽象的にすることで、手札がばれるのを徹底的に防いでいるのだ。 オールド・オスマンには『アカデミーの人間が自分をフーケの一味と誤解しているから、そのフリをして情報を収集する』とでも主張しているのだろう。 ここ最近リゾットの周りを調べさせているのだが、何処にもフーケやその仲間らしき影すら確認する事が出来ず、それどころか誰よりも熱心にフーケ捕縛に情熱を燃やす、真逆の立場の人間にしか見えなかった。 全くの偶然で手に入れた情報がなければ、リゾットとフーケを結びつける事すら出来なかったに違いない。 どの陣営から見ても『ユダ』に見えないように、かりそめの立場を演じる……それを完璧にやってのけているのだ。目の前の男は。 「……そういう事だから、俺の周りを調べるのはよしてもらおう。話を伝えたくても伝えられない」 「! ……わかった。伝えとくぜ」 ひやりとさせられる一言だった。 実はアカデミー側は、売買を担当すると言う仲間に直接交渉する為にリゾットの周りをかぎまわっており……それに釘を刺されたのである。 「連絡が取れ次第、こちらから伝える」 席を立とうとするリゾットに、男は慌てて声を張り上げた。まだ用事が残っている。 「ああっと! ちょいと待った!」 「?」 「渡すもんがあるんだよ。いわゆる袖の下って奴だ」 言いながら男が手にした布袋から取り出したのは……一本のワインだった。 「こいつをあんたにってな……『博士』からだ。『シャトー・オーブリオン』の『白』85年ものだと」 「なんだと?」 手渡されたそれをまじまじと眺めて、リゾットは呻いた。 飲兵衛のフーケの影響で、やたらとこちらの酒に詳しくなったリゾットには分かる……いや、ワインの知識が無くても、シャトー・オーブリオンを知らない者はいないだろう。ヴィンテージワインの中でももっとも有名な名前だ。しかも、『白』ともなれば…… トリスティンに限らずハルケギニアで飲まれているワインは、リゾットの世界で言うところの『赤ワイン』が主である……白ワインは極端に数が少なく、希少なのだ。 昔は赤白ロゼの各種が、リゾットの世界と同じように大差なく飲まれていたのだが、3000年前のある事件を境に白ワインはめっきり数を減らしていた。 白ワインの原材料となる色素の薄い葡萄に、深刻な病害が発生したのだ。ハルケギニア全土を席巻したその病害によって、白ワインの原材料は壊滅状態に陥った。 それに伴い、白ワインの価値が高騰し……今では、白ワインというだけで普通の五倍近い値段がするような有様である。 シャトー・オーブリオンの白ともなれば、高いものとなるとエキュー金貨で4000は下らないという。 85年物と言えば、メイジの間では有名な伝説があり、余計にプレミアものだ。 はっきり言って、取引相手への袖の下としては、高級すぎて警戒心を招くような過ぎた代物だった。 「……これを、俺にか。本気か?」 何をたくらんでいるのか、そんな目つきで男を見返すリゾット……手にした瞬間に、呑んで騒いでしているフーケの姿が脳裏をよぎったのはご愛嬌である。 「あんた達に、だ……まぁ、ここだけの話だが呑む用じゃねーしな」 「何?」 「85の伝説は知ってんだろ? そいつは、その伝説に出てきた『本物』らしいぜ」 「……本気なのは分かったが、正気か?」 「ああ。だからくれぐれも気をつけてくれとさ」 『本物』なら、気をつけようが無いと思うが。 リゾットは『博士』とやらが何を考えてこんな代物をよこしたのかますます分からなくなった。転売して金にしろとでも言うつもりなのだろうか? 確かに、『本物』ならば相場の倍で売っても文句は出ないだろう。 あるいは、この品の流れからリゾット達の使う販売ルートを探ろうと言う腹なのだろうか? 相手の思惑が全く読めず、リゾットは胸中に沸き立つ不安を抑えきることが出来なかった。 (騒ぎの種にならなければいいが……) ……結果から先に記そう。 このときリゾットが抱いた懸念は、エピタフも真っ青な確立で的中する事になる。 確かにこのワインは騒ぎの種になった……それも、学院中を巻き込むような大騒ぎを巻き起こすのだ。 雲ひとつ無い青空に、太陽だけが孤独に、しかし暖かくその姿を誇示していた。 陽光が髪を程よく暖めて、頭蓋骨の奥にある脳髄に至るまで温もりを与えてくれる。 その恩恵は気温や衣服にも及び、全身を包む陽気は心地よく神経を愛撫し、横になって瞼を閉じればそのまま夢の世界に旅立てそうだった。 その日、平賀才人は暇だった。何をするでもなく相棒のデルフ背負って、ボーっと広場の片隅で日向ぼっこをしている。 いつアカデミーの手の者がやってくるとも限らない危機的な状況の中で、暇があるなら訓練でもするべき……そう考えていた時期が才人にもありました。 事実、つい昨日まではスポコン漫画顔負けのハードトレーニングを繰り返していたのだが。 それを塗り替えたのは、朝の特訓を終えた才人、ギーシュ、ルイズの三人に対して、医務室勤務のメイジが送ってくれた言葉だった。 『傷つけられた筋肉は、回復する事で以前よりも太くなる』……ようするに、運動したら休めと言う単純な話。 たったそれだけの事に、才人は眼を見開かんばかりにして驚いた。その後メイジが聞かせてくれた理論は、才人達の世界で言うところの『超回復』の理論そのままだったのである。 才人自身、漫画で聞きかじっただけの知識だったのですっかり忘れていたのだが……メイジの言葉でその概念を完全に思い出し、文明的に遅れていると思い込んでいたハルケギニアに、『超回復』の理論が存在する事そのものが、才人に衝撃を与えた。 (思った程、遅れてないのか?) 無意識のうちにハルケギニアの文化を低く見ていたことを自覚し、才人は頬を掻いた。 休めと言われたのだから、大いに休ませて貰おう。こんな時間からゴロゴロ昼寝だなどと、普段ならばご主人様の雷が落ちるところだが……幸いと言うかなんと言うか、今日は彼女も自室でグロッキーだ。雷を落とす元気など余ってない。 ……おせじにも逞しいと言えない彼女が、肉体派の二人と同じ勢いで特訓などしたのだから、当然の結果ではある。 体を鍛えていないと言う条件はギーシュにも当てはまるのだが、そこは流石は男の子と言ったところか。少なくともルイズのように過労死体になってはいない。過労死体には。 ……他の女性に鼻の下伸ばしたのを目撃したモンモランシーの手によって、撲殺死体である。今頃は、医務室でうんうん唸っているはずだった。 暖かい日差しと昨日から続く疲労……二つの要素が重なって、才人の意識をまどろみの向こうへと誘おうとしている。 しかし、微熱の少女の誘惑よりも強力なその誘いを、才人は受け入れようとしなかった。 理由は簡単……睡魔以上に気色の悪い感覚が、彼の皮膚で蠢いていたのである。 「うへぁ……」 皮膚と服、双方の設置面に感じられる、ねばついた感触……朝の特訓で流した汗の残滓だった。 いくら疲れているとはいえ、こんな状態で眠っても熟睡できるとは思えない。 どうせ休むのならば、これ以上ない状態で休みたいのが、才人の正直な欲求だ。 もといた世界でなら風呂に飛び込み体を洗えばそれで終わりなのだが、ところがどっこしここはハルケギニア。才人のいた東京とは文化も違えば時代も違う異世界である。 現代日本で慣れ親しんだユニットバスなど存在するはずもなし。 お湯を張って漬かる風呂もあるにはあるが、貴族専用平民お断りの高級品。 平民にあてがわれる風呂と言えば、サウナで流した汗を水で洗い流すと言う、現代日本人の神経にはなはだ優しくない、一度入っただけで嫌になるような原始的な代物だった。 今までは贅沢を言わずに使っていたが、折角公認で怠惰を満喫できる機会、思う存分贅沢をしたくなるのが人情と言う者だろう。 (とはいえ、風呂なぁ……) 最初はギーシュに頼んで貴族用の風呂にでも入れさせてもらおうかなどと思っていたが、頼みの綱が撲殺死体になっているので頼みようがなく。 どうしたものかと、寝転がったまま首をかしげ……傾いた才人の視界に、でかくてまるい何かが移りこんだ。 厨房の片隅に立てかけられた、でっかいお釜……風呂と大がま。ハルケギニアでは無関係極まりない双方を結ぶ単語が、才人の脳裏でひらめいた。 (釜……? おお! 五右衛門風呂!!) 降って沸いた贅沢の種に、才人は横たえていた体を跳躍させ、特訓の疲れを感じさせない動きで走り出した。 全身の筋肉をつたい覆う痛みに、ルイズはベッドの上で唸っていた。 彼女はひたむきな努力家であり、徹夜の勉強など日常茶飯事。その上で他者にそれを悟られぬように、眠いそぶりを見せず授業に出る事も多々あった。 己の努力の結果生じた弊害に耐える美徳が、彼女にはあるのだが。 その彼女をして耐え切れないほどの、それは苦痛だった。いや、耐性がないというほうが正しいかもしれない。 彼女が行ってきた努力と痛みは、勉学とそれによる眠気であり、今味わっているような痛みは全くの未知の領域だった。 その正体は、『筋肉痛』。 少しでもスポーツしたり、体を使ったりした人間なら誰でも体験する、アレである。 「あ、あの馬鹿犬……!」 そもそもの元凶は、才人が自分達の特訓にルイズを誘った事だった。 使い魔である才人がアカデミーから狙われる以上、ルイズも無関係ではいられない。 彼女の抱く貴族の理想像は、厄介だからと言う理由で使い魔を見捨てたりはしないし、使い魔に守られっぱなしなのも良しとしなかった。 最近自分の失敗魔法を活かす道を見つけ出したこともあって、ルイズは以前よりも一層成長するための努力に貪欲になっていた。 才人からの特訓の誘いを断る理由はなかったために、二つ返事で付き合ったのだが。 簡潔に言うと、彼女はマヌケだった。ようやく自分の魔法に自信が持てたせいで舞い上がっていたオオマヌケだった。 メイジと武器を手にして戦うメイジ、肉体資本の近距離パワー型スタンド使い……相互の性質の違いに思い至らなかったお間抜けさんだった。 熱血スポコン漫画よろしくダッシュから始まり、とことんまで肉体を追い詰める特訓内容に、線の細いルイズがついていけるわけが無い。 途中でギブアップすればいいモノを、生来の負けず嫌いが災いして最後まで付き合った結果……参加一日目で屈辱のギブアップをする羽目になり、翌日の今日、朝の特訓の直後に疲労と筋肉痛で動けなくなったのである。 部屋中を包む薬品の匂いは、ルイズの体に張られたシップを中心になおも広がり続けている。自分がこんな状態だというのに、彼女の使い魔はさしたる疲労も見せていない事実が、ルイズを苛立たせるのだ。 これでは、自分よりも才人のほうが優れているみたいではないか。 肉体派の戦士と頭脳派のメイジを比べる愚を理解してはいても、そう思わずにはいられなかった。 最近の才人は……はっきり言って凄い。 『灯の悪魔』や『黄の節制』との戦いで見せた動きは一級の戦士でも色あせるほどに凄まじいものだったし、星屑騎士団の精鋭達から手ほどきを受けたせいか輪をかけて凄くなった。 今の才人なら、ラインやドットクラスなどものの相手ではないだろう。それに比べて自分はどうだ。 イカシュミの指導の下大分マシになったとはいえ、彼女の爆発を応用した戦術は、実戦に耐えうるものではなかった。錬金以外の魔法だと狙いが定まらない。 肝心の錬金は、動き回る対象を錬金することが出来ず、石を使った『爆弾』も一度タネを見られてしまうと対応されてしまう。 どんどん強くなっていく才人と、立ち止まったままの自分。 日を追うごとに開いていく距離に、ルイズは名状しがたい感情に襲われ、嘆息した。 トリステイン魔法学院の門はお世辞にも堅牢と言えるつくりではなく、その警戒は厳重でもなかった。 衛士が24時間在中しているが、そこに覇気は無く文字通りいるだけの存在であった。貴族の子弟が通う環境と、その家門による威光が、関係各位の危機意識を著しく下げていたのだ。 『まさか、学院に族が進入するはずが無い!』と、そう思っていたのである。 それらの事実が過去形と扱われるようになったのは、つい最近の事だった。 フーケの姫殿下に対する大逆と宝物庫荒らし、ラバーソールによる貴族子弟への傷害事件……相次いで学院内で引き起こされた犯罪は、貴族の名誉を著しく傷つける結果となったのだ。 貴族であるメイジの通う学院が、薄汚い平民によって踏み荒らされ、害された事実に、宮廷のおわす『自称・良識者』の面々は自分達の油断と責任を忘却の彼方に押しやって、激怒した。 その結果が、現在の有様である。 城門には6時間交代制で常に殺気立った衛士が張り込み、出入りするものは手荷物から素性まで徹底的にチェックされる。 例え身元が確かなものでも前もって連絡が無ければ、入る事まかりならぬという厳戒態勢であった。 (さて。どうしたものか) 城門をくぐって帰還したリゾットは、たった今チェックされた荷物を扱いあぐねていた。 シャトー・オーブリオンの白。85年の『本物』。 ワインの体裁は保っているものの、れっきとした危険物の一種であり、誰かに飲ませれば犯罪が成立してしまうような代物である。 売ってしまえば話は早いのだろうが、ものがものだけに品物の流れが判明してしまう可能性が高い。盗賊の一味としては売買ルートがばれるような真似は自重したかった。 売り払うわけにも行かず、呑むわけにも行かず、実に扱いに困る代物である。 (とりあえずは……) 『リゾット・ネェロ』が、『イカシュミ・ズォースイ』の仮面を被る。 気分を入れ替え教師としての態度で広場を歩きながら、ふと違和感を覚えた。 普段ならそこに見えるべき光景が、無かった。 走り込みに素振り、組み手にと汗を流すギーシュと才人……事情を知らない人間たちからは奇異の目で見られる二人の姿が見当たらないのである。 何があったのかといぶかしむリゾット……別に教師としての愛情に目覚めたわけではないが、毎日繰り返されていた光景が無いと言うのはどうにも落ち着かないものだった。 ギーシュと才人。 二人の事が脳裏をよぎった際に、リゾットは奇妙な事に気づいた。 つい先程町で会って来た男……アカデミーからの使者の口から、二人に関する言葉が一切出てこなかったのである。 傭兵を雇って犯罪行為に走るほどに欲していたと言うのに……協力しろとまではいかないまでも、話題にくらいは上らせるべきではないだろうか。 あえて触れない。その事実こそが、ことさら不自然だった。 (……一応、報告しておくか) 考える間もリゾットの足は止まることなく、学院長室に向かって動き続けた。 それは、久しく忘れていた類の感覚だった。 戦場の空気とか、殺気とか……そんなご大層なものではない。目の前にうずたかく詰まれた書類の量、それが発する圧迫感に、オスマンは眉を潜める。 (全く、老体に鞭打ちおって) 「のぉ、ミス・ロ……」 自分が仕事を溜め込んだ事を棚上げして愚痴を吐き……それを聞くべき相手がいない事を思い出した。 『オールドオスマン。使い魔を使ってスカートを覗くのはやめていただけますか?』 彼のイタヅラにクールに応対する秘書は、もういない。彼が求める美しい声の持ち主は、その声を含めたすべてを失って久しいのだ。 ミス・ロングビル。 オスマンの間近でセクハラの被害を受け続けた、有能な秘書。 彼女は、本来失われるべきでないその命を、理不尽に散らされていた。 「……どーも、いかんのう」 オスマンは嘆息する。その視線と声にこめられた哀愁は、普段の好々爺からは連想すら難しい湿ったものであった。 散々セクハラしておいて、どの口が言うのかと思うかもしれないが……オスマンは彼女の事を本当に大切に思っていた。 恋人とも違う、娘とも違う、奇妙な感情ではあったが…… セクハラして、蹴られて、踏まれて、逃げて、怒られて。 一連の威厳を削る行為は、オスマンのライフサイクルに組み込まれていたと言っていい。正直なところ、とても愉しいやり取りだった。 その名残だろうか。こうやって、いないはずの人物に話しかけてしまうのは。 胸元で十字を切り、短く黙祷してから、溜まっていた仕事の処理に取り掛かる。 有能な秘書を失った事で、オスマンの事務処理能力は眼に見えて落ちていたが……新しい秘書を雇おうとは思えなかった。 雇ってしまえば……それこそ本当にミス・ロングビルの居場所が無くなってしまう様な、そんな気がして。 女々しい自分の考え方に苦笑するオスマン……学院長室のドアがノックされたのは、丁度そのときだった。 「オールド・オスマン。ズォースイです」 「! おお、ミスタ・ズォースイか。 入りなさい」 沈んでいた表情で至高を瞬時に切り替え、オスマンはペンを置いた。間をおかずに扉が開かれて、イカシュミ・ズォースイが室内に入ってくる。 「情報収集の報告にあがりました」 「して、状況は?」 「相変わらず、俺の事をフーケの一味だと誤認したままです……仲間に連絡を取ってみると、お茶を濁しておきましたが、疑っている様子はありませんでした」 「ふむ……そうか。まだ疑ってはおらんようじゃな。 あまり深入りしすぎんようにな。ワシの指図で動いておるとばれたら、何が起こるかわからん」 「かぎまわるな、と釘を刺しておきましたから、しばらくは大丈夫でしょう。 ……俺も、元々は傭兵です。いざと言う時の荒事にはなれています。ご心配なく。 今回の交渉では、何故か平賀才人とギーシュ・ド・グラモンについて言及されず……交渉で値段を引き上げてみたところ、興味深い情報が入手できました」 「ほう?」 「『もの』の値段をこの程度とふっかけてみたのですが……」 DISCの名前は出さない。イカシュミはその名前の事を知らされていないのだから。 オスマンは彼にDISCの具体的な情報は与えず、『破壊の杖に隠されていたもう一つの秘宝』という扱いで調査を進めさせていたのである。 言いながらズォースイが提示した金額に、オスマンは眼を見開いて止まった。 「…………」 「……オールド・オスマン?」 「あ、い、いやその」 再起動を果たしたオスマンは、咳払いを一つした後、 「……吹っかけすぎじゃないかのぉ。『もの』の相場の、倍近いんじゃが」 「倍? 俺は三倍を想定してふっかけたつもりなのですが」 オスマンとリゾット、両名のこの言葉は、嘘である。 提示された金額はDISCの価値としては至極全うなものであり、オスマンが面玉ひん剥いて驚いたのは、リゾットが正当な価格をつけたことに対して。 リゾットの言葉は、DISCの事を知っているのではないかと言う情報を勘繰られない用心の産物。 全ての真相を知るものがいれば、空々しさを感じずにはいられない会話であった。 「問題は、倍率ではなく連中の返事です。 連中は、この金額を『出せる』と言いました。他に買い手があるのなら倍額を出すとまで」 「……!? なんじゃと!」 今度は、腹に隠すものが何一つ無い驚きが、オスマンを襲う。 『全部』……複数存在するものに対してこの金額を支払う事が、どれだけの出費になるのか! メイジとして知られたオスマンですら想像ができない世界である。 「……それは、間違いないのかね?」 「直接交渉しに来た男は、まず間違いなくこの道のプロです。取引で嘘をつくほどマヌケではないでしょう……大口のパトロンがついたと言っていましたが……」 「君にあっさり教えるという事は、調べてもそう簡単にはわからんようにしてあるじゃろうなあ……」 「あるいは、使い捨ての財布扱いなのか」 「ふむ」 「こんなものを送ってくるところを見ると、かなりの資金源が想定されます」 言って、リゾットは手にしたものをオスマンのデスクに置いた。 おかれたワインのビンをいぶかしげに眺めるオスマンだったが……そのラベルに書かれた文字を読み解くにつれて、その顔がこわばっていった。 「しゃ、しゃとーおーぶりおん……」 「白の85年もの。伝説の本物です」 「しかも本物か……君が吹っ掛けたのと同じくらいの金にならんか? これ」 「なりますね。おそらくは」 「…………潤沢、なんてレベルじゃねーの。資金源」 「はい……国から支給される予算だけではないでしょう。 状況的にも、連中にパトロンがついたことは確かです」 「むううううう……」 上級貴族でも滅多にお目にかかれないヴィンテージを前にして、オスマンは唸り声を上げた。想像以上の敵の規模に、最早言葉もない。 おかしな話だが、オスマンは今の今まで、アカデミー暴走派をトリステイン王国国営の研究所だと言う認識を持っていた。 実状は兎も角として、王宮から賜った予算で動いているという認識だ。 予算が打ち切られれば動きが取れなくなって、必ず尻尾を出すだろうと考えていた……甘い予測だったと言わざるを得ない。 連中は王宮の命令を聞かないばかりか、資金に至るまで王宮の支配を逃れている……そんな連中に対して予算をカットしても、焼け石に水だ。 間違いない。 『アカデミー』は、完全に王国直下の研究機関という枠組みすらも踏み外し、暴走している……! 「こりゃ……とてつもない規模なのかもしれんのう。相手の具体的な人数が知りたいところじゃわい」 この金額をほいほい動かせる上に、袖の下にこんなものを持ってくるような資金……人数によっては下手な犯罪組織よりも厄介な存在となるだろう。 オスマンのつぶやきに、リゾットは生真面目な表情で一つ頷いて、 「……調べましょう」 「頼む。 ……ああ、このワインは君のほうで保管してもらえるかの」 「わかりました」 ズォースイに異論は無かった。こんな得体の知れないものを売ったり使ったりするぐらいなら、保管したほうがましである。 「売るなりコレクションするなり好きにして構わんが……くれぐれも、使ったりせんようにな」 「……学院長」 「流石に冗談じゃよ。保管するんなら、わしからマルトー君に話をしておこう。厨房のワインセラーを使うといい。 いかにいわく付とはいえ、これほどのワインを不用意に扱って酸化でもさせた日には夢見が悪いからの」 「助かります」 ……二人は後日こう述べる。 『あの時、止めておけばあんな事態にはならなかったのに』と。 まず、Uの字型の台を作ってその上に古い大釜をのせる。そして火をつけてお湯を張り、底板を落として風呂にする……文章にすればたったこれだけの行動である。 しっかりとした土台を作るのには手間がかかったものの、風呂そのものが完成するまでにはそんなに時間はかからない。 それ以上に余計な部分に時間をかけ、背中を預けられる木製の背もたれや、脱衣所まで自作する始末だった。 平賀才人。贅沢すると決めたら、とことんまで贅沢する男である。 結果として入浴は夕方になってしまったがそれは幸運だったと言うべきだろう。 人が余り来ないヴェストリの広場の隅とはいえ、360度晒し者の風呂に日中から入浴するのには、結構勇気がいる。 遅い時間帯だからこそ、羽を伸ばしてのんびり出来るわけで。 「っはぁ~~! 生き返るぜこりゃあ!」 何処から持ってきたのやら。 タオルを頭に載せ、鼻歌歌って、いかにも極楽を満喫してますと言う表情の才人だったお盆に徳利お猪口載せて渡したら、未成年の分際で酒盛り始めそうである。 『いい気分なのはいいがな相棒。こういうのはこれっきりにしてくれ……』 不満そうな声を上げるのは木材の切断やら釘打ちやら……風呂場の構築に不本意な形で協力させられたデルフリンガーである。 特訓の汗に加えて、この風呂を作るのに流した労働の汗も一緒くたに洗い流せて、ご機嫌な才人だった。そんな彼の鼓膜に、雑音など入るはずも無く。 (どーしたもんかねー) やたらと上機嫌な相棒の姿に、デルフリンガーは言葉を捜すのに苦労していた。苦言を呈する以上に、伝えなければならない重要な話があるというのに…… 才人の持つルーンの力……これについて、思い出した事があるのである。 武器を手にすることで持ち手の身体能力を引き上げる力を持っている代物で、その事自体は才人の周りにいる殆どの人間が理解しているだろうが。 問題なのは、その発動の仕方だった。確かに、今の才人はルーンの力をほぼ制御しきっているのだが、『認識』しなければ能力を発動させる事ができないのだ。 本来、ガンダールヴの能力は武器を手にすることで自然に発動するものであり、そこに術者の意識が介入する余地はない。 今の才人のように意識して力を発動させるなどありえないはずだった。 ガンダールヴレベルの高速戦闘の中で、『認識』と言う過程は致命的なタイムラグを生むだろう。そういう意味では才人のガンダールヴ能力は不完全なものといえる。 ギーシュが教えた『まず力があると確信する』という言葉が原因になった、歪みだった。あの時あの瞬間では理想的なアドバイスが、時を経て大きな障害と化している。 かといって、一度覚えてしまった能力の使い方を、一から覚えなおすのは困難だったし、今の才人にそんな余裕は無い。 覚えなおしている間、恐らく才人の戦力はがた落ちになるだろうし、その間に襲撃されたら眼も当てられない。 (ほんと、どーしたもんだろーね) 言うべきか言わざるべきか。 軽々しく扱えない大きな問題に、デルフリンガーは低く唸った。 夕焼けに照らされるヴェストリの広場を、とことこと歩く人間が一人。夕日に引き伸ばされた長い影を引き連れるのは、学院付のメイド、シエスタだ。 (才人さん、一体どうしたのかしら……) 思うのは、己の想い人である少年の事だった。 平民で使い魔というかなり代わった出自の持ち主ではあったが、最近の彼は特に風変わりな人物となっていた。 ご主人様の事もほったらかして、メイジのギーシュと一緒に特訓特訓。しつこいほどに自己鍛錬を繰り返しているのだ。 珍しいなんて門じゃない、口の悪いメイジの仲には、そんな二人を気でも違ったかと笑う者もいるのだ。 いつも才人の事を見ているシエスタには分かる。笑い話にするには、特訓にいそしむ才人の姿はあまりに必死すぎた。 当たり前の話だが、シエスタはアカデミー関連の騒ぎについて、完全に蚊帳の外だった。 無理も無い……学内でも知るものの少ない騒ぎの情報を、一メイドが知りえるはずが無いのだ。 それ故に、アカデミーに対抗する為の特訓が酷く不自然なものに見えてしまい、その必死さを心配する事しか出来ない。 一体、何故そんなことをするのか。強くなるため? だとしても一体何故……その原因を、シエスタは全く知らない。 恋する乙女である彼女にとって、想い人の情報で知らない事があるというのは、とても辛い事だった。 ましてや、アレほどまでに極端な変貌の理由ともなれば、知りたいと思うのは当然だろう。 (私じゃあ、相談に乗れないんでしょうか……) 気分転換にと散歩に出たシエスタだったが、気分は鬱々と沈むばかり……恋する乙女の悩みは、散歩ぐらいで軽くなるような生易しいものではないのである。 まさか直接聞くわけにもいかず、シエスタは嘆息し…… 「……あら?」 その視界に大釜が飛び込んできたのは、丁度その時だった。 大釜。 厨房などでは良く見かけるものだが、広場の片隅にででんと置かれるようなものではない。 その大釜は先日マルトーが捨てようとしていた古いものであり、それがこんな場所で火にくべられているというのは、なんとも奇妙な話だった。 鍋自体から沸き立つ大量の湯気からして、お湯が沸かされているようだったが…… 「……なにかしら、これ……」 不思議がりつつも好奇心には勝てず、恐る恐る釜に近づくシエスタ…… 「ん? 誰だ??」 その湯気の向こうから声が返ってきた時、シエスタはまず幻聴を疑った。 だって、想い人のことを想像している時に想い人本人が目の前に現れるなど、いつの時代の絵物語なのだろうか。 「才人、さん??」 「シエスタ!?」 確かめるようにつぶやいた言葉に対する返事を耳にして、シエスタはこれが現実なのだと認識した。眼凝らせば湯気の向こうで湯船に漬かる才人の姿が見て取れる。 「これは一体……? 何をしてらっしゃるんですか?」 「な、何って、お風呂だけど」 「お風呂……ですか? サウナ風呂じゃなくて?」 「うん」 タオルで股間を隠しながら答える才人に、シエスタはその顔に血流を集中させ、真紅に染める。自分が相手の風呂を覗いているという事実に気付いてしまったのだ。 恥ずかしげに眼を逸らし、 「こ、こんな早い時間にお風呂ですか」 「……これでも、結構時間かかったほうなんだけどな」 ポリポリと頬をかきながら、才人はつぶやく。 「朝の特訓の後、医務室の先生にしばらく休めって言われたんだ。だから、どうせなら派手に休んでやろうと思って」 「それで……お風呂?」 「ああ。さっぱり汗を流したかったし」 言いながら浸かる才人の体は、思った以上に逞しい者だった。 引き締まった筋肉は最近の特訓で作られたものなのだろう……間近でそれを見たシエスタは、照れる以前に息を呑んでしまった。 そして思い出す。この肉体を作られるために流されたであろう汗と、それを流させた特訓の事を。 まあ、そのことに悩んでる真っ最中に当の本人が目の前に現れたのだ。連想しないほうが可笑しい。 何故、彼はこれほどまでに体を鍛えるのか? 最近になって特訓などし始めたのは何故なのか? まさか、ルイズに強要されているのでは? いくつもの疑問が、シエスタの脳裏で水疱の如く浮かんでは消える。まさかその全てを口に出すわけにもいかず…… 「あの、才人さん?」 何故、そんなに必死になっているんですか? 搾り出そうとした問いは、気が付けば全く別の問いかけへと変容していた。 「……何か、欲しいものありますか?」 「え?」 「い、いえ! なんというか、お風呂上りに飲み物でもお持ちしようかと……!」 「あ、ああ……」 いきなり飛び出したシエスタからの申し出に、才人は一瞬躊躇した後に、 「……じゃあ、冷たい飲み物でも」 「は、はい! よく冷えたワインですね! すぐに持ってきますので」 シエスタは真っ赤になった顔を隠すように、慌てて踵を返し―― 「! 危ないシエスタ!」 「へっ?」 溢れたお湯でぬかるんだ地面に足を取られて、派手にスッ転んだ。 どべちゃ、と鈍い音がして、純白のエプロンに泥の花が咲く。 「……わわ、やっちゃったぁ……」 起き上がったシエスタは、自分のメイド服の惨状を見て、目じりに涙を浮かべた。 このメイド服は学園側からの支給品であり、汚せば責任者である部屋長から特大の雷が落ちることになるのだ。 「部屋長さんにまた怒られちゃう……」 「だ、大丈夫か? シエスタ」 「は、はい」 自分を案じる才人の声を嬉しく思いながら、シエスタは身を起こして……そこで、悪魔の囁きを聞いた。 『あーあ、ぐちょぐちょだなお嬢ちゃん……どうだい? 相棒と一緒にひとっ風呂浴びたら』 その悪魔の名前は、デルフリンガーといった。
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日本時間で朝六時半、そのくらいの時間に自然に目を覚ます。 家族の分の朝食を作り、簡単な家事をするためにはこの時間が一番いいからだ。 一応セットしてあるがあまりお世話にならない目覚まし時計を止めようとして―――思い出した。 死んだこと、生き返ったかもしれないこと、ここが異世界であること、 ―――しなくてはならないことがあること。 『それ』をするための準備をして部屋を出る。近くに人はいない。 そして一階まで降り、人を探す。 うまい具合に一人見つけ、そいつに近づく。 あと五メートルほどの所でそいつがこっちに気づいた。女だった。驚いた顔をしている。 そしてあと二メートルくらい距離を縮める、女の顔が怯えているように見える。 「おはよう。イキナリですまないが洗濯の道具は何処にあるか教えてもらえるか?」 これ以上怯えさせないため、形兆はなるべく爽やかに挨拶をした。 「こちらにある道具なら自由使ってかまわないと思います」 「ありがとう。助かったよ」 「では、私はこれで」 そういって黒髪のメイド、シエスタは去っていく。 簡単な自己紹介で自分が使い魔であることを見抜かれた。 見抜かれたというよりは他に考えられなかっただけなのだろうが、そんなことはそうでもいい。 とにかくこれで洗濯ができる。形兆にあるのはそれだけだった。 シエスタに教えてもらった水汲み場に行く。 ここで洗濯をすれば良いと言われたからだ。 まず形兆は持ってきたタライに水をいれる。 次に洗濯板の片方を浸け、もう片方をおなかで固定するッ!これで板がぐらつくことはもう無いッ! 濡らした衣類を板の上に広げてッ、両手の手のひらの手首に近いところを使いッ!揉む様に洗うッ! コツは肩の力を抜き手首をなるべく軟らかく動かすことッ! そして何よりも重要なのはッ!何よりも重要なのは『汚れを落とすッ!』という強い意志をもつことッ! 億泰が服に付けたしょうゆとかのシミをよくこんな風に落としてやったな、 そんな事を思い出しながら時間は過ぎてゆく。 洗濯を終え清々しい気分で部屋に戻った形兆を出迎えたのは主人の怒りだった。 起きたばかりなのかまだ寝間着のままルイズは自分の使い魔を怒鳴りつける。 「どこに行ってたのよ!」 「水汲み場だ」 「何でそんなところに行ったのよ!」 「洗濯をしろ、といったのはそっちだが?」 「う……で、でも何で私を起こさないのよ!」 形兆に非は無い、それを知ったルイズは別のところに矛先を向けた。 「起こせ、とは言われてなかったぞ?」 「そうだけど……えーと、えーと、と、とにかく謝りなさい!」 わざわざ怒る理由を探した割には無茶な怒り方だった。 起きた時姿が見えなかったのがそんなに不安だったのだろうか。 別に形兆は悪くないのだから謝る必要は無いのだが、このままだとどんなことになるか分からない。 「謝らないとご飯抜きよ!」 謝る理由も意味もないのに謝れと言われ形兆にも怒りがでてきた…………だがしかしッ! (この場所であってはならないのは…『精神力』の消耗だ…くだらないストレス! それに伴う『体力』へのダメージ…!! おれはこの『異世界』で!!『やるべき目的』(帰る方法を探すこと)があるッ! 必ずやり遂げてやる…そのためには…!くだらない消耗があってはならないッ! いや…逆にもっと強くなってやるッ!) 「すまなかった。次から気をつける」 腰をキッチリ四十五度曲げ、謝った。 自分の使い魔がアッサリと謝ったことにルイズは驚く。 自分でもこれは理不尽なことだと薄々は思っていたのだが、主人としてのプライドがルイズを意固地にさせていた。 『形兆は謝らない』……『自分も後には引けない』つまり、堂々巡りの形になるな… ルイズはそう考えていた。 だが余計な消耗を嫌った形兆の謝罪によってそうはならなかった。 この話題を蒸し返されたら、また面倒なことになる。そう判断したルイズは次の命令をした。 「早く服を着せなさい」 「それも使い魔の仕事なのか?」 「そうよ。貴族は目の前に従者がいる時、自分で服を着たりしないのよ」 「そうか……」 正直言ってやりたくないことだったが、文句を言っても余計な消耗をするだけなのでさっさと服を着せた。 ルイズに服を着せ、二人で部屋を出ると、廊下にあるドアの一つから赤い髪の女が出てきた。 「おはよう、ルイズ」 「おはよう、キュルケ」 相手の名前以外は同じことを言っているのだが ルイズの方は何故だか分からないが不機嫌そうな、 キュルケとか言う女の方はお気に入りのおもちゃを見つけて、喜びを隠し切れない子供みたいな言い方だった。 「それがあなたの使い魔?」 「そうよ」 「へ~~~ぇ」 「何よ」 「ほんとに平民を使い魔にしたんだな~~~って関心してたのよ。流石は『ゼロのルイズ』ね」 「うるさいわね」 形兆はこの一言で二人の大体の関係を把握し、なるべく関らないことに決めた。 「そうそう私の使い魔をよく見せてなかったわね。来なさい、フレイム」 キュルケが自分の使い魔を呼ぶ。 そして現れたのは、赤くて大きい爬虫類だった。 「火トカゲよ。サラマンダーとも言うわね」 勝ち誇った声でサラマンダーを見せてくる。 形兆は火トカゲだとどこかの博士からもらえる三匹の内の一匹のイメージがあったため、 『こいつの種族はサラマンダー』と覚えた。ちなみに彼は聖剣の伝説のゲームはやっていなかった。 そしてキュルケは使い魔の自慢話を始める。 内容は尻尾の炎の事やそこから推測したサラマンダーの出身地、 それ(出身地)がブランドものであること、 好事家に見せたら値段なんかつかない事など、形兆にはよく分からないことを話し始めた。 分からないから適当に相槌を打っていれば良かったのだが 形兆はさっき関らないことを決めていたので何も言わなかった。 だから適当に聞き流してさっさと去ってしまえばそれで良かったのだが、 ルイズはそれをしなかった。つまり聞き流さなかったのだ。 それでもルイズは何も言い返さない、 そしてキュルケの話が終わり、キュルケがこの場を去った後に、 「なんなのよあの女はッ!」 盛大に怒りを音に変換した。 「まあそう大声を出すな、そのうちお前にも運が巡ってくるさ」 形兆がフォローをいれようとしても、 「あんたが原因でしょうがっ!」 やはり怒鳴られた。 「何であの女がサラマンダーで私はあんたなのよ!」 「それをおれに言われてもな」 「あ~~~くやし~~~」 「そういえば『ゼロのルイズ』ってのは何なんだ?」 これ以上ルイズの恨み言を聞く前に何とか話題を変えようといった言葉だが、これが良くない結果を生んだ。 「うるさ~~~~~いッ!」 火に油を注いでしまったのだ。 しばらくしてルイズの怒りがおさまったので、二人とも一階にある食堂に移動する。 食堂の中には三桁くらい座れそうなテーブルが三つ並んでいて、結構な人数がもう食事をしていた。 右のテーブルには茶色のマントの生徒、真ん中がルイズと同じ黒、そして左が紫である。 形兆はふと思ったことを聞く。 「マントの色は学年で決まっているのか?」 「そうよ、茶色が一年生で紫が三年生」 「黒が二年か」 「ええ、そうよ」 そしてルイズは立ち止まる。 つられて形兆も立ち止まり、 「早く椅子を引きなさいよ、気の利かない使い魔ね」 無言で椅子を引き、形兆も座ろうとして――― 「あんたは下よ」 と、ルイズに言われた。 下を見るとそこにあったのは皿に入った明らかに粗末なスープとパンだった。 「感謝しなさい。使い魔は外で食べるのに私のおかげで中で食べれるんだから」 形兆はプッツンしそうになったが、プッツンしても状況は何も変わらない、 それどころか悪くなるだろうことを考え、自分を抑えた。 いっそ脱走しようかとも考えたが、まだ情報が少ないためそれすら不可能と判断し、 情報を集めたらさっさと逃げること、後で食べられそうなキノコを探すことを決め、形だけの感謝を述べた。 To Be Continued ↓↓
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第二十三章 惚れ薬、その終結 授業が終わった後の風の塔の踊り場にルイズの声が響いた。 「見つからないってどういうことよ!」 「言葉通りの意味だよ。解除薬は見つからなかった」 フーケは少し億劫そうな声で答えた。トリスタニア中の闇魔法屋を回ったため、疲れたのだ。 「念のため、材料についても探してみたんだけどね。どうしても必要な水の精霊の涙が入荷されなくなってるらしいよ。何でも、ラグドリアン湖に住んでる水の精霊たちと最近、連絡がとれなくなっているって話でね」 「何で?」 「さあ、そこまではわかんないね。でも、入荷は絶望的らしいよ」 人一倍真面目に知識を蓄えてきたルイズは水の精霊の涙についても知っていた。水の精霊の涙と言うのは、実際には涙ではなく、水の精霊の身体の一部である。 「それじゃ、タバサを元に戻せないじゃない……」 ルイズは肩を落とした。リゾットの前で「解除薬を手に入れておく」と言った手前、彼が戻るまでに薬を手に入れておかないのはルイズの主人としての沽券に関わる。何より、本人は認めたくないが、タバサがあんな調子では精神的なストレスがたまってしょうがない。 「まあ、そう気を落とす必要はないよ。魔法屋の一つで水の精霊の涙を買った客を聞き出すことができたんだけど、どうやらこの学院の生徒らしい」 「本当に!? だ、誰?」 「ちょっと待ちなよ……」 フーケは興奮して身を乗り出したルイズを片手で制しながら、メモを取り出して読み上げる。 「女性。黒いマントを着用……あんたと同学年だね。金髪碧眼。ツリ眼。体系は痩せ型。胸がない」 気忙しく貧乏ゆすりしていたルイズの身体がぴたりと停止した。 「さ、さささ最後の情報は何? 私へのあ、あてつけ?」 「秘薬を作るってことはまあ、水のメイジだろうね……。って、は?」 怪訝な顔でフーケがメモから顔をあげると、ルイズはこめかみをひくつかせてこちらを凝視していた。笑顔だが、何故かその笑顔が怖い。 ルイズはまじまじとフーケの胸を見た。今まで気にしていなかったため、分からなかったが、よく見ると大きい部類のようだ。 否、はっきりと大きい。オスマンとコルベールをして「けしからん」と言わしめたフーケに、ルイズは圧倒された。 (て、敵……。敵だわ……) ルイズが内心で悶えている間、フーケもまたルイズの胸を見た。なるほど、こちらもあまり気にしていなかったが、ちゃんと見ると、服の上からでもはっきりと分かる。平原だ。大規模な野戦にちょうどいい地形だろう。 (同じ年頃でもこうまで差が出るとはね……) アルビオンで暮らす家族同然に思っている少女の胸と比較し、フーケは思わず哀れみの眼でルイズを見た。胸の大きさが女性の全てだとは思わないが、流石に平原ではコンプレックスにもなろう。 「……」 二人の間に気まずい沈黙が降りる。重い空気にフーケはつい口を滑らせた。 「……始祖ブリミルも残酷なことをなさるわね……」 次の瞬間、ルイズはフーケに虚無を放った。 「……まあ、私からの情報はそんなところなんだけど、誰か心当りはある?」 フーケは服に積もった埃を払いながら尋ねた。ほとんど詠唱せずに放たれたからか、爆発は大した威力ではなかったが、フーケの髪は爆風で乱れ、服は埃まみれになっていた。 (やれやれ、こりゃあリゾットも大変なご主人様を持ったもんだね) そんなことを考えながら髪や服を整えるフーケをまだ少し不機嫌そうに睨みながら、ルイズは考えを巡らせた。この学院には沢山の人がいるが、学年や系統、さらに髪や眼の色、体型まで分かっているなら相手を特定することはさして難しくない。 「モンモランシーかしら。彼女は香水とか、秘薬作りが趣味だったはずだわ」 『香水』のモンモランシーはルイズと同じ二年に所属する水系統のメイジで、ギーシュの恋人であり、リゾットとギーシュが決闘する際、ギーシュに絶縁宣言を突きつけた一人である。 「ああ、彼女か……。それじゃ、彼女に頼んで、譲ってもらうなり、解除薬を作ってもらうなりするんだね。もう使われてたらどうしようもないけど」 「確かにそうね…。今から急いでモンモランシーの部屋に行ってみるわ」 「行ってらっしゃい。私はここで待ってるから、あとで首尾を聞かせて」 フーケの返事を聞くのもそこそこに、ルイズは寮塔に向かって走り出した。 さて、その頃、モンモランシーの部屋では、ギーシュが部屋の主にして恋人を一生懸命、口説き落としていた。この二人、年中くっついたり別れたりしており、今はその瀬戸際なのだ。 と言っても、実はこの手の言い合いは二人にとって年中行事である。今回の場合、そもそもの原因はギーシュが下級生に色目を使ったことに端を発する。 ギーシュにとって『ちょっと念入りに挨拶する』程度のことがモンモランシーの気に障るのだから、衝突は避けようがないのだ。 ギーシュはモンモランシーの機嫌をとるため、部屋の中を行ったり来たりしつつ、薔薇やら水の精霊やら星やら黄金の草原やら、とにかく思いつく限りの美の対象を引き合いに出しながら、既に歌劇一本分ぐらいの台詞を吐き出していた。 流石にモンモランシーもギーシュが可哀想になってくる。モンモランシーとて、ギーシュの気持ちを本当に疑っているわけではない。 何しろ命をかけて秘境から財宝を取ってきて、それを自分にプレゼントするくらいだ。だが、それはそれとして他の女を見るのは気に食わないし、腹も立つ。 どうしようかとしばらく考えていたが、その時、モンモランシーの頭に閃光のように名案が浮かんだ。 すっと、後ろを向いたままギーシュに左手を差し出す。ああ、とギーシュは感嘆の呻きを漏らし、その手に口付ける。 「ああ、僕のモンモランシー……。もう僕は君以外目に入らない……」 続いてギーシュは唇を近づけようとしたが、すっと指で刺された。 「その前に、ワインで乾杯しましょうよ。せっかく持ってきたんだから」 「そ、そうだね!」 テーブルの上には、花瓶に入った花とワインの壜と陶器のグラスが二つ置いてあった。ギーシュはそれらを携えて、モンモランシーを訪れたのである。 ギーシュは慌てて、ワインをグラスについだ。すると、モンモランシーはいきなり窓の外を指差した。 「あら? 窓の外に裸のお姫様が飛んでる!」 「え? どこ! どこどこ!」 ギーシュは目を丸くして、窓の外を食い入るように見つめている。 (なーにーが! 『君以外の女性は目に入らない』よ。やっぱりコレを使わなきゃダメね! 全く、使わなきゃ使わないで済ませたのに……) そう思いながら、モンモランシーは袖に隠した小瓶の中身を、ギーシュの杯にそっと垂らした。透明な液体がワインに溶けていく。 香水のモンモランシーが腕によりをかけて密かに作り出したそれは、早い話が惚れ薬だった。 完全に液体がワインに溶けるのを見計らって、モンモランシーはにっこりと笑った。 「嘘よ。さあ、乾杯しましょ」 「やだなあ、びっくりさせないでくれ」 ギーシュはおどけながらも杯を手に取った。二人の杯が触れ合い、その中身が両者の喉を降りていく。 杯が空になったその時、大きな音を立てて部屋の扉が開き、ルイズが入って来た。 「モンモランシー、話があるんだけど!」 中に居た二人は思わずルイズに視線をやった。そう、ギーシュもである。 「ノックくらいはしたまえ、ルイズ! ………ん?」 「あ!」 モンモランシーが声を上げたが、既に遅かった。ギーシュの中で、ルイズへの好意が急速に膨れ上がっていく。元々ギーシュは女性には好意的であるが、その好意は桁違いだった。 「ああ、ルイズ……、君はなんて美しいんだ……。君に比べればこの世のどんなバラの美しさも霞んでしまうよ……」 そういってルイズの手を取り、その甲にキスをする。 「へ? と、ととと突然、何よ、ギーシュ! 気持ち悪いわね」 不意打ちで自分への賛美を聞かされ、ルイズは思わず照れて、手を引っ込めた。みると、モンモランシーが頭を抱えている。その様子でピンと来た。 「モンモランシー、あんた……まさかと思うけど、惚れ薬をギーシュに飲ませたんじゃないでしょうね?」 途端にモンモランシーの身体がぎくりと跳ねた。 「な、何で分かったの!?」 「やっぱり……。遅かったわ……」 がくりと肩を落とすルイズだったが、ギーシュはその肩を抱き寄せる。 「どうしたんだい、僕の愛しいルイズ? 君にそんな顔は似合わないよ。笑っておくれ。そうだ、元気が出るおまじないをしてあげよう」 そう言ってルイズの頬に唇を寄せる。次の瞬間、モンモランシーとルイズは双子もかくや、というコンビネーションを発揮し、あっという間にギーシュを縛り上げ、床に転がした。 「な、何をするんだね、二人とも。ああ、もしやそういう趣向なのかい? ルイズがしたいなら僕は構わないよ」 などと見当違いのことをいうギーシュを、モンモランシーは怒りに肩を震わせて睨んだ。 「な、何がおまじないよ…! 惚れ薬を飲んだとはいえ、私の前でよくもそんなことを……!」 低く呟く。よくもも何も自分が惚れ薬を飲ませたせいなのだが、感情は時に論理を超越するのである。 「モンモランシー、解除薬を作って!」 詰め寄るルイズに、モンモランシーは気まずそうに答える。 「無理よ。もう材料を使い切っちゃったし。買い直すにしてもお金なんてないもの……」 貧乏な貴族、というと奇妙な印象を受けるかもしれないが、世の中、ルイズの実家、ヴァリエール家のように豊かな貴族ばかりではない。 むしろ、貧乏な貴族というのが世の貴族の半分を占めている。 そもそも貴族が何より大切にする体面を保つのには存外、金がかかる。 例えば、ギーシュの実家のグラモン家は元帥職も輩出している武門の名家であるから、戦争のある度に、見栄を張って多大な出費を繰り返している。 また、屋敷や領地というものは維持するだけでも結構な費用がかかる。貴族は基本的に世襲制であるので、代々の当主が経営の才に恵まれているとは限らない。 領地経営を失敗すればあっという間に貧乏へと転落する。 干拓に失敗して領地を保つのにやっと、という状態になったモンモランシーの実家、モンモランシ家はこちらの部類に入る。 今回の惚れ薬の材料にしても、モンモランシーが得意の香水を調合しては売り払い、こつこつ貯めたお金で購入したものなのだ。もう一度材料をそろえるのにはどれほど掛かるか……。 が、金はとりあえず問題ではない。リゾットはフーケに資金を預けていったため、出そうと思えば出せる。問題はその前だ。 「……使い切っちゃった? 材料を?」 「ええ……」 その言葉と同時にがくり、とルイズが膝から崩れ落ちた。市場にないものはいくら金を出しても買えない。それでは解除薬が作れず、解除できないのでは使い魔をタバサから取り戻せないし、薬の力でギーシュに好かれたところで迷惑でしかない。 二重の意味で打ちひしがれているルイズを尻目に、モンモランシーも考え込む。何だかんだいっても彼女だってギーシュがこのままでは精神衛生上、とてもよくない。何とかして解除しなくてはならない。 そうこうしているうちにルイズが決然と顔を上げ、宣言した。 「こうなったら水の精霊に会いに、ラグドリアン湖へ行きましょう!」 「本気? 学校はどうすんの? それにルイズ。あんた、水の精霊が何か、知らないわけじゃないでしょうね?」 「分かってるわよ。滅多に人前に姿を現さないし、怒らせでもしたら大変なんでしょう? でも、一ヶ月も一年もギーシュがこのままでもいいわけ?」 「それは……」 モンモランシーは言葉に詰まった。しばらく唸りながらギーシュやルイズに視線をさまよわせた挙句、遂に音をあげた。 「あー、もう! 分かったわよ。仕方ないわね! 手伝ってあげるわよ!」 「最初から素直にそういえばいいのよ」 満足げに笑うルイズと対象的にモンモランシーは不満げに鼻を鳴らした。 「勘違いしないで。ギーシュが心配ってわけじゃないわ。お付き合いなんて遊びみたいなものだけど、薬のせいとはいえ、浮気されるのが嫌なだけよ」 「そう。まあ、それならそれでいいわ。貴方が素直じゃないのはわかったし」 ちょっと肩をすくめながら、どこかでこういう光景を見たことがあるな、とルイズは思った。普段の自分自身なのだが、自分のことほど理解しにくいものなのである。 「はあ、サボりなんて初めてだわ」 「大丈夫だよ、モンモランシー。僕なんか今学年は半分も授業に出てないし、僕のルイズはもっとだ。まあ、僕のルイズのためなら授業なんて一つもでなくても後悔しないけどね! あっはっはっ!」 ギーシュは底抜けに明るく笑い、次の瞬間、二人の少女に同時に殴られた。 ぐったりしたギーシュを尻目に、ふと、モンモランシーはルイズに訊いてみた。 「ところで、貴方の使い魔はどうしたの?」 ルイズはその質問に少し声を詰まらせた。平静を装ってそっけなく答える。 「……別に。ちょっと使いに出してるだけよ」 「そうなの……」 モンモランシーはほっとしたように息をついた。モンモランシーはルイズの使い魔が苦手だった。特に目立つわけでも乱暴を働くわけでもないが、何となく不気味なのだ。 素手でギーシュとの決闘に勝ったという事実がその雰囲気を助長していた。当のギーシュはリゾットにそんなに悪い印象を抱いているわけではないのが不思議だったが。 「じゃ、明日の朝一で出発ね! それまで、ギーシュの面倒みておいてよ!」 ルイズがそういって出て行った。残されたモンモランシーは気絶しているギーシュを見て、一人、憂鬱そうにため息を吐いた。 ルイズたち三人は馬を使い、ラグドリアン湖までやって来た。道中、ギーシュはルイズを自分の立派な葦毛の馬の前に乗せたかったようだが、ルイズに拒絶され、モンモランシーに凄まじい形相で睨み付けられ、それは諦めた。 丘から見下ろすラグドリアン湖の青い水面は、陽光を反射し、キラキラと宝石のように輝いていた。 「これが音に聞こえたラグドリアン湖か! いやあ、なんとも綺麗な湖だな!ここに水の精霊がいるのか! 感激だ!」 はしゃぐギーシュとは対照的に、ルイズは懐かしい目でラグドリアン湖を見渡していた。前に一度来たときはアンリエッタのお供だった。その当時のアンリエッタは園遊会の後、夜毎にルイズをベッドの中に影武者として寝かせ、自分は夜な夜な抜け出していた。あれは今は亡きウェールズに逢っていたのだな、と、今、成長したルイズならば理解できるが、当時は不思議だったものだ。 思い出から戻り、ふと気付くと、ギーシュは馬を回り込ませ、ルイズの後ろから湖を見ていた。そのまま薔薇を咥えて悩ましげに眉を寄せている。 「……何してるの?」 何となく嫌な予感を覚えながらルイズが尋ねると、ギーシュは盛大にため息をついた。 「いや、今、感激したばかりだが、こうして一緒にみるとラグドリアン湖の美しさなど、ルイズには遠く及ばないね。霞んでしまうよ」 「なっ!?」 歯が浮くような台詞を言われ、ルイズは赤面した。その途端、ギーシュの馬が急に湖に向かって走り出す。 「うわっ!?」 波打ち際まで全力で走った馬は、水を怖がり、急停止した。慣性の法則で、ギーシュは馬上から投げ出され、湖に頭から落ちる。 「背が立たない! 背が! 背ぇええええがぁあああああッ!」 ばしゃばしゃとギーシュは必死の形相で助けを求めている。どうやら泳げないらしい。 「ふん、なによ! ルイズルイズって馬鹿みたい!」 ギーシュの馬に鞭を入れた張本人、モンモランシーは不機嫌そうに呟き、自らも波打ち際まで馬を進める。 ギーシュがルイズに付きっ切りなため、彼女は道中、ずっとこの調子だ。 「ま、まあ、薬のせいだし。解除薬を飲めばすぐ治るわよ」 ルイズがフォローを入れながら後に続く。水の精霊との連絡には『水』のメイジであるモンモランシーが必要不可欠なため、彼女がいつ機嫌を損ねて帰ると言い出すかと、ルイズは内心ひやひやしていた。 必死の犬掻きで岸に辿り着いたギーシュは、息を整えると、薔薇を咥えなおして精一杯格好をつけた。 「ちょっと格好悪いところをお見せしてしまったかな?」 そんなギーシュに女性二人が顔を見合わせ、がっくりとうな垂れていると、遠くから一頭の馬に跨った金髪の女性が近づいてきた。二人の側に来ると馬を降り、ルイズに向かって礼をする。 「お嬢様、お待ちしておりました。無事に到着されて何よりです」 「ええ。頼んでいたことは調べてくれた?」 「はい。まだ付近住人に聞き込んだ程度ですが」 誰? と目線で尋ねてくるモンモランシーに、ルイズは答える。 「ええと、うちの実家の使用人のラ・ポルト。ほら、夏期休暇に入ったら実家に帰るから、その準備のために来てくれたんだけど、ラグドリアン湖の水の精霊がおかしいって話だから、先に行って調べてもらっていたの」 ルイズは覚えた『設定』を一気にまくし立てる。ふぅん、と特に疑った様子もなく、モンモランシーは聞いていた。 「さすがラ・ヴァリエール家のご令嬢ね……」 「よろしくお願いします。ミス……」 「モンモランシよ。モンモランシー・マルガリタ・ラ・フェール・ド・モンモランシ」 「僕はギーシュ・ド・グラモンだ」 「よろしくお願いします、ミス・モンモランシ、ミスタ・グラモン」 そういってラ・ポルトは頭を下げた。護衛をかねているのか、杖を下げている。そんな彼女を見て、モンモランシーは何か引っかかるものを覚えた。 「ねえ、貴方……どこかで会った事、ある?」 「いいえ、初対面です」 「そう……。きっと他人の空似よね」 モンモランシーは首を傾げた。どこかで会ったことがあるような気がしたのである。 それもそのはずで、このラ・ポルトという女性はフーケの変装である。 元々、フーケは学院長の秘書という、生徒と直接には関係ない職についていたので、そもそもフーケがミス・ロングビルを名乗っていた頃の顔をはっきり覚えている生徒は少ない。髪を染め、化粧の仕方を変え、眼鏡を野暮ったいものに変えるだけで、十分に変装になっていた。 ちなみに偽名のラ・ポルトというのは、ルイズがアンリエッタと過ごした少女時代によく叱られた侍従の名前である。 「まあ、そんなことより、どうなの? 何かわかった?」 ルイズが本題を切り出す。フーケは頷いて喋りだした。 フーケの調査によると、二年ほど前からラグドリアン湖の水位が上昇し始めたのだという。徐々にではあるが、確実に増水は進んでいるようで、湖を見渡すと、確かに屋敷の屋根らしきものがかろうじて水面に出ている。湖面を覗き込むと、畑の名残らしきものも湖底に見て取れた。もちろん自然現象ではありえない増水の仕方である。 「付近の住民によると、水の精霊の仕業だとか」 「……そうね。水の精霊は怒ってるみたい」 話を聞きながらじっと湖面を見つめていたモンモランシーが呟いた。『水』のモンモランシ家は代々、トリステイン王家と水の精霊の盟約の橋渡しをして来た家柄である。今は交替してしまったとはいえ、その一員であるモンモランシーも、何か感じ取れるのだろう。 「領主はどうしたの? 自分の領地がこんなことになっているのに」 「訴えはあるようですが、どうやらまだ大した問題にしていないようですね。 元々、ここの領主は宮廷での付き合いに夢中なようですし、今は戦争の準備があります。関わっていられないのでしょう」 「ふぅむ……戦争は国家の一大事だし、貴族同士の付き合いも面子がかかっているところがあるからねえ……」 服を乾かしていたギーシュがそういうのを、貴族嫌いのフーケは冷ややかな目で見ていた。貴族から追放された身だからこそ分かることもある。貴族は領民がいるから生活できるのだ。それが苦労しているのに放置するというのは本末転倒だ。 「ギーシュ、ふざけたことを言わないで。自分の領地と領民も守る責任を果たしてこその貴族なのよ」 だから、ルイズがそういってギーシュを睨み付けたときは、ルイズを見直すような気持ちになった。 「ああ、ごめんよ、僕のルイズ。そんなつもりで言ったんじゃないんだ」 慌てて弁解するギーシュに、そっぽを向いたルイズは、フーケの視線に気付いた。 「何よ?」 「いいえ、お嬢様がご立派になられたことに感激しただけでございます」 そういってフーケは心からの微笑を浮かべた。 「ふ、ふん。別に当たり前よ、このくらい。それより、モンモランシー。水の精霊は呼び出せるの?」 そういってモンモランシーを見る。次の瞬間、そこにいた生物を見て悲鳴をあげた。 「か、カエル!?」 鮮やかな黄色に所々黒い斑点のついたカエルが、モンモランシーの手の平の上にちょこんと乗っかり、主人を見つめていた。 驚いたルイズとカエルの間にギーシュが割り込む。 「大丈夫だよ、ルイズ。あれはモンモランシーの使い魔なんだ」 「そうよ。あんまり嫌がらないでちょうだい。大事なパートナーなんだから」 憮然として言うと、モンモランシーは指を立て、カエルに命令した。 「いいこと? ロビン。貴方の古いお友だちと、連絡が取りたいの」 モンモランシーはポケットから針を取り出すと、それで指の先を突き、血を一滴、カエルに垂らした。 すぐに呪文を唱えて傷を治療すると、顔を近づけ、カエルに言い聞かせる。 「これで覚えていれば相手は私のことがわかるわ。お願いね、ロビン。水の精霊に、盟約の持ち主の一人が話をしたいと伝えてちょうだい。わかった?」 ロビンは頭を下げると、水の中へと入っていった。 「さ、後は待つとしましょう」 「水の精霊ってどんな姿なの?」 ルイズが興味本位で訊いて見た。知識として知っているが、実際にその姿を見たことはない。ギーシュも相槌を打った。 「僕も見たことないなあ」 「う~ん……生きている水って言えばいいのかしらね。私も小さい頃、一度だけしか見たことないわ。領地の干拓をするときについてきてもらったの。大きなガラスの容器の中に入ってもらって来たんだけど……。その姿を例えるなら……」 その時、岸辺から三十メイルほど離れた湖面が光を放った。 「っと、来てくれたみたい。私が説明するより、見た方が早いわ」 餅が膨らむようにして湖面が盛り上がったと思うと、何か見えない手にこねられているように形を変えながら水が盛り上がった。形を変える水、それその物が水の精霊なのだ。 湖から戻ってきたカエルを自分の懐にしまいながら、モンモランシーは両手を広げ、水の精霊に語りかけた。 「私はモンモランシー・マルガリタ・ラ・フェール・ド・モンモランシ。古き盟約の一員、その末裔よ。貴方が私を覚えていたら、私たちにも分かるやりかたと言葉で応えてちょうだい」 その声に反応するかのように、水の精霊はぐにゃぐにゃと形を変え、一糸纏わぬモンモランシーそっくりの形になった。日の光が反射し、それはまるで宝石が動いているようだった。その美しさに思わずルイズとフーケはため息をつく。ギーシュは水の精霊ではなく、ルイズの横顔にため息をついていた。 水の精霊は形を整えると、身体を震わせてモンモランシーに返事をした。 「覚えている。単なる者よ。貴様の身体に流れる液体を、我は覚えている。貴様に最後に出会ってから、月が五十二回交差した」 「よかった。水の精霊よ。お願いがあるの。あつかましいとは思うけど、貴方の身体の一部を分けて欲しいの」 水の精霊が怒っている理由も多少、気になるが、まずは自分たちの目的から頼んでみる。 その願いを聞くと、水の精霊はにこりと笑った。 「断る。単なる者よ」 表情とは裏腹に、精霊はそう言ってにべもなく断った。 「そういわずに、お願いするわ。私たちにはそれが必要なの。何らかの形でお礼はするわ」 粘り強く交渉しようとするモンモランシーを押しのけて、ルイズが水の精霊に懇願した。 「お願い! それがないととても困るの! ほんのちょっとでいいから、私たちに貴方の一部を分けてちょうだい!」 ルイズが頼み込んでいるのを見て、ギーシュも水の精霊に頭を下げた。 「水の精霊よ。僕からもお願いするよ。どうか貴方の一部を分けてくれないかい?」 「ギーシュ……」 モンモランシーが呟くと、ギーシュはちらっとモンモランシーを見た。 「何に使うか知らないが、女性二人が、しかもルイズとモンモランシーが望んでいることを、この僕が手伝わないわけにもいかないだろう?」 水の精霊は三人に懇願され、考えるように形をぐにぐにと変えていたが、またモンモランシーの姿を取ると、返事をした。 「よかろう。単なる者たちよ。我のいう条件と引き換えに、我の一部を譲り渡そう」 そして水の精霊はその条件を語り始めた。条件を聞いていくうちに、一同の表情が渋くなっていく。はっきりいって苦手な依頼だ。しかし、断るという選択肢はない。 (フーケに相談するしかないわね) ルイズは心の中でそう思っていた。 タバサに命じられた任務は、ラグドリアン湖を増水させている水の精霊の退治だった。水の精霊は盟約を結んだ人間としか交渉に応じないらしく、盟約を結んでいるのはトリステイン王国であるため、ガリア王国側からは交渉をできない。ならばトリステインを経由して交渉すればいいようなものだが、そこに何か思惑があるのか、それともそれを口実にしてタバサを消したいのか、どちらなのかは指令から読み取ることはできなかった。 どちらにしてもタバサたちに拒否権はない。タバサ、キュルケ、リゾットの三人は、その夜も任務に取りかかるため、ラグドリアン湖の岸辺にきていた。 ことが明らかになれば国際問題に発展する可能性すらあるため、人目につかないよう、三人とも漆黒のローブを身に纏い、フードを目深に被っている。 タバサが杖を掲げ、呪文を唱え始める。 タバサが風の魔法で空気の球を作りだし、湖底にいる水の精霊をキュルケの炎とリゾットの武器で攻撃するのだ。水そのもののような水の精霊も、液状の身体を蒸発させたり分解したりすればダメージがある。もちろん、相手からの抵抗もあるが、水が届かない限り、相手からの影響は受けない。 こう書くと簡単なように思えるが、逆に言えば少しでもタバサが動揺したり集中を切らしたりして、湖の水が入ってくれば三人とも一瞬で殺されるということでもある。 従って、任務の間、リゾットとキュルケは極力口を利かないようにしていた。二人が会話すると、それだけで惚れ薬の影響下にあるタバサが動揺する可能性があるからだ。 タバサの詠唱が終わる頃を見計らって、リゾットも用意した武器を握る。手袋の下のルーンが発動し、身体が軽くなる。と、何か違和感を感じた。 次の瞬間、突然地面が盛り上がり、大きな手のように広がると、三人を捕縛しようと絡みつく。同時に背後の茂みから七人の武装した人影が飛び出してくる。 だが、三人の反応は素早かった。即座にキュルケが呪文の詠唱を開始し、リゾットは飛び出してきた敵に対応するため、跳躍して土の手を回避する。 キュルケが杖から出した炎で土の戒めを焼き払う。その魔法を放った隙を狙うかのうようにラグドリアン湖の水面が盛り上がり、水柱となってタバサたちに襲い掛かる。 だが、水柱はキュルケと少し時間をずらして呪文を詠唱したタバサの放つ風の槌に粉々に散らされた。と、思ったらまた地面が隆起し、牙を剥く。 相手も二人で組んでいるらしく、土と水が交互に襲い掛かり、キュルケとタバサの火と風とぶつかり合う。 一方、リゾットは武器を先頭の人影に叩きつける。火花が散り、人影が吹っ飛んだ。 「ゴーレムか」 倒れたときの金属音と自分の手に伝わってきた感触からそう判断すると、空いている手でデルフリンガーを抜き、二体目のゴーレムを切り裂く。 「なんでぇ、相棒。今回、俺の出番はねーんじゃなかったのか?」 「あっちはゴーレムには役に立たないからな」 いじけたように呟くデルフリンガーに言葉を返しつつ、リゾットは加速してゴーレムを切り伏せ、同時にそれを操るメイジを探す。 木陰に杖を持った複数の人影を見つけると、リゾットは他の二人に視線を投げかける。その意図を瞬時に理解したキュルケとタバサは落ちてきた水柱を二手に分かれて回避すると、それぞれ炎と、氷の矢を放った。 だが、それに対応するように一人が杖を振る。タバサたちと人影の間の土が盛り上がったと思うと、瞬時に鋼鉄へと変化し、二人の魔法を弾く。 「よし! ……え!?」 相手のメイジが短く歓喜の声を上げるが、その声は次の瞬間、驚きの声に変わった。二人の魔法に隠れるようにして接近したリゾットが壁を回りこんで飛び込んできたからだ。 眼前のメイジを切り捨てようとした瞬間、リゾットは聞き覚えのある詠唱を耳にした。 「待て!」 リゾットの制止も間に合わず、その最後の一人は延々と唱えていた詠唱を中断し、杖を振る。光の球が突如、空間に出現した。 リゾットはデルフを構えて背後に跳ぶが、それでもなお襲ってきた爆発の衝撃によって地面に叩きつけられた。 「相棒、大丈夫か!?」 「大丈夫だ。心配させて悪いな、デルフ……」 即座に立ち上がると、杖を構えるメイジたちを手で制す。 「待て、ルイズ」 フードを外すと襲ってきた四人の一人が声を上げた。 「え……リゾット!? ということは……」 後方にいたキュルケとタバサもリゾットの様子に気付いてフードを取り去った。暗闇に潜んでいたギーシュとモンモランシーが叫ぶ。 「キュルケ! タバサ!」 「何であんたたちがこんなところにいるの!?」 「それはこっちの台詞よ!」 一同が困惑する中、リゾットはルイズの隣の変装したフーケに気付いた。 「なるほど。素人じゃないなと思ったが、お前がいたのか……」 フーケは無言で肩をすくめてみせた。 合流した七人は、ラグドリアン湖のほとりで焚き火を囲みながらお互いの事情を教え合うことにした。 キュルケたちは夕食がまだだったこともあり、自然と宴会のような様相を呈している。ギーシュはルイズにワインを勧められ、酔っ払って眠り込んでいた。 「つまり解除薬に必要な水の精霊の身体の一部を分けてもらうため、襲撃者である俺たちを倒してくれ、と依頼されたのか」 リゾットが話をまとめる。ルイズの『エクスプロージョン』を受ける瞬間、デルフリンガーを掲げたため、リゾットは比較的軽傷で済んでいた。 治癒をかけるなら水系統のモンモランシーが適任なのだが、タバサが譲らなかったため、今、リゾットはおとなしくタバサの治療を受けている。 「最初は断られたんだけどね」 まさか解除薬に水の精霊が必要だったとは思わなかったリゾットは、あのまま水の精霊を倒した場合を考えて少しひやっとした。 「それにしても、まさか別に惚れ薬の問題が持ち上がっているとは思わなかったな……」 「こっちも驚いたわよ。ルイズから使いに出されたとは聞いていたけど、タバサたちに付き添ってたのね」 事情を聞かされたモンモランシーは興味深げにタバサをみていた。タバサは甲斐甲斐しくリゾットの治療を続けている。 「なるほどね……」 「まあ、タバサのことはおいといて、何で惚れ薬なんて作ったの?」 キュルケがモンモランシーに尋ねる。 「つ、作ってみたくなっただけよ。深い意味なんてないわ」 何となく悔しそうに呟くモンモランシーの視線の先には酔っ払って寝ているギーシュがいる。それだけでキュルケにはぴんと来たようで、苦笑した。 「全く、自分に魅力がないからって薬に頼らなくってもいいじゃない」 「うるさいわね! 元はといえば、ギーシュが浮気ばっかりするのがいけないのよ! 惚れ薬でも飲まなきゃ治らないの! それなのに……」 言葉の途中で涙声になり、モンモランシーは俯いてしまった。憎からず思っている相手が別の女性にかかりっきりというこの状況はやはり心身に堪えるらしい。 「それくらいにしてあげて。私にもちょっとは責任があるから」 ルイズが言うと、キュルケは肩をすくめた。 「でも、どうするの? 解除薬は手に入れなきゃタバサとギーシュは治らないけど、水の精霊は倒さなきゃいけない」 「俺たちの攻撃だと水の精霊を消滅させることはできても切り取ることはできないからな……」 「そういえば、ミス・ツェルプストーはともかく、リゾットさんはどうやって水の精霊に攻撃していたのですか?」 今まで使用人らしく、黙って肉を焼いていたフーケが不意に訊いて来た。その質問に、リゾットは長さ1メイルほどの鉄の棒を取り出す。棒には銅線がびっしりと巻きつけられ、柄に当たる部分にはゴムが巻かれていた。 「これに磁力を通すと、電撃が発生する」 リゾットはメタリカを発動させつつ、鉄棒を握り、薪の一つに押し付ける。 火花が散って、薪が弾けとんだ。いうなればスタンガンのようなものである。 科学的には電磁誘導と言った現象にあたるのだが、リゾット自身、磁力をコイルに通すと電気が発生する、といったことを知っているだけで、それがどの程度の電圧がでるかなどといった詳細は知らない。そもそもリゾットの発生させる磁力は酸化した鉄分をも操作することが可能であり、通常の磁力とは性質を異にする。 スタンド能力にとって重要なのは「出来て当然」と思うことであり、科学知識はその思い込みを補強する要素に過ぎないのだ。 「電撃は水を分解する。これで水の精霊を攻撃していた」 「色んなことができるのね、それ」 ルイズの珍しく感心したような呟きに、リゾットは首を振った。 「だが、今必要なのは、相手の身体を切り取る能力だ。少し……難しいな」 「……私はもう少しこのままでもいい」 治療を終え、リゾットの隣で黙々とはしばみ草のサラダと肉を食べていたタバサが、不意に呟いた。 「そういうわけにはいかないだろう」 リゾットがタバサに言うと、ルイズもそれに同意する。 「そうよ。そんなのダメよ! タバサが実家に帰る度に使い魔がいなくなってたら、使い魔の意味がないじゃない!」 食ってかかるルイズに、タバサは僅かに首を傾げた。 「嫉妬?」 「しっ……だ、だだだ、誰が! そんなわけないでしょ!?」 「本当に?」 じっと、青い眼でルイズを見つめる。しばらくして、呟いた。 「嘘吐き」 「う、嘘なんか吐いてないわ! 私はただ……」 そこでルイズは絶句した。タバサの視線に、ルイズは思わず視線を逸らす。 「そ、そんなことより。どうして貴方たちは水の精霊を襲ってたの?」 「それは……ええっと……水の精霊が湖を増水させているから、タバサの実家でも被害に会ってるらしいの。それであたしたちが退治を頼まれたってわけ」 キュルケがタバサの家の事情を伏せて説明する。それを聞いて、一人、フーケは怪訝な顔をしていた。 (確かこの近くはガリア王の直轄領だったはずだけど……) リゾットに視線を送ると、僅かに首を振った。何か事情があるのだろうと察して、とりあえず納得する。調べようと思えばすぐに分かるだろう。 「では、こうしたらいかがでしょうか? ミス・モンモランシーに仲介していただき、水の精霊から増水させている理由を聞き出すのです。理由が聞き出せれば交渉の余地もあるかと」 「確かに。水が引けば退治する理由もなくなるな……。それでいいか?」 リゾットの問いに、タバサは頷いた。 「よし、決まり! それじゃ、明日、早速交渉しましょう」 キュルケが宣言し、その夜は過ぎていった。 翌日、朝靄の中から現れた水の精霊に襲撃者を撃退したことを伝えると、水の精霊は自らの一部を分け与えた。 湖底に戻ろうとしていた水の精霊を、ルイズが慌てて呼び止める。 「もう一つ、聞きたいことがあるのだけど、いいかしら?」 湖底に戻ろうとしていた水の精霊は再び湖面に浮上した。 「どうして貴方はこの湖の水を増水させているの? この辺りの人たちは皆、増水に困ってるわ。今回の襲撃者もそれが原因で来たみたいなの。多分、貴方がこのまま水かさを増やし続ければ、誰か別の襲撃者がやってくるわ。 何か目的があるなら私たちも協力するから、話して」 水の精霊はまた考えるように形を変形させていたが、やがてモンモランシーの姿に戻り、口を開いた。 「よかろう、単なる者よ。我は約定を守る者を信じる」 そういってまた姿をいくつか変えた後、元に戻って語り始めた。 「我が目的は我が長き時をともに過ごした『アンドバリの指輪』を取り戻すことにある。そのために我の領域である水を増やした」 その名前を聞いて、モンモランシーが記憶を探るようにしばし考え込んだ。 「聞いたことあるわね。確か、偽りの生命を死者に与える、『水』系統の伝説のマジックアイテムね」 「そうだ。誰が作ったのか、何故作られたか、我は知らぬ。だが、お前たちがこの地にやってきたときには既に存在していた。死を恐れるお前たちには偽りとはいえ、命を与える指輪は魅力に思えるかも知れぬ」 それを聞いて、フーケはピンときた。似たものを見たことがあるし、リゾットが不在の間に耳にしたある噂を思い出したからだ。 「先住魔法によって作られた物かもしれませんね。そういう品があると、耳にしたことがあります」 「ん、先住魔法?」 不意にデルフリンガーが声を出した。 「ええ、何かお心当たりが?」 「んー、いや、なんだっけなあ。何か今、思い出しそうになったんだが……」 「またか。土壇場にならないとお前は思い出さないのか?」 リゾットが呆れたようにいうと、デルフリンガーは仕方ないだろ、昔のことなんだから、と呟いて、黙り込んでしまった。時折、何かを思い出そうとうんうん唸っている。 デルフリンガーがそれ以上思い出しそうにないことを見取ると、フーケは前に出た。 「水の精霊様、お尋ねしたいことがあります。『アンドバリの指輪』を盗んだ賊は、アルビオンの手の者ではございませんでしたか?」 至極丁重な口調で言う。地を知るルイズやキュルケは、よくもまあ、こんなに雰囲気を変えられるものだ、と感心してそれを見ていた。 「どこの者かは分からぬ。だが、我が住処に来た数個体の一人がこう呼ばれていた。『クロムウェル』と」 「アルビオンの新皇帝の名前じゃない」 キュルケの呟きに、フーケは頷いた。 「ええ。恐らく、間違いないかと」 「どういうことだ?」 リゾットが全員を代表して疑問を述べる。最近、聞いた話なのですが、と前置きして、フーケは話し出した。 「クロムウェルは死者を蘇らせることができるらしいのです。本人はそれを伝説の『虚無』の力と喧伝しているそうですが、今の話を聞く限り、アンドバリの指輪のせいと考えた方がよさそうですね」 それを聞いて、ルイズは何かに納得したように手を打った。 「そっか……。何でアルビオン王家が簡単に裏切られたかと思ってたけど、その宣伝の効果もあったんだわ。死んでも生き返らせてもらえると思えば、普段は日和見している貴族も貴族派につくもの」 始祖ブリミルは信仰の対象になるほどハルケギニアの人間の心に根を下ろしている。そもそも、現存する王家自体が始祖の血を受け継ぐものたちが作ったものなのだ。 その始祖の力が使える、と臭わせるだけでも効果は十分だっただろう。 「だが、単なる者よ。重ねて言うが、『アンドバリの指輪』によって得られる命は偽りの命。それを使って蘇らせた者は使用者に従う人形に過ぎぬ」 「悪趣味ね。死人を意のままに操るなんて」 水の精霊の言葉に顔をしかめながら、キュルケは内心、頭をひねっていた。 何か引っかかるものを感じていたのだが、うまく思い出せない。まあ、今は水の精霊と交渉するのが先か、と髪をかきあげて思い出すのを諦めた。 「アンドバリの指輪というのは死者を操ることしかできないのか?」 リゾットの質問に、水の精霊はしばらく間をおいて答えた。 「いいや、水の力そのものを凝縮したものであるが故、その使い方は一つに留まらぬ」 「なるほどな……。外付けの精神力みたいなもので、どう使うかは使い手次第ってわけか……。で、どうする、ルイズ?」 ルイズはしばらく悩んでいたが、リゾットの問いかけに、決心したように頷いた。受けるのだろう。 「いいのか?」 「仕方ないじゃない。タバサだって実家の手前があるし……。それより、あんたは私の使い魔なんだから、手伝うのよ! 分かってる!?」 「ああ……。もちろんだ」 「ん、分かってるならいいわ」 笑顔で頷くと、ルイズは大声で水の精霊に叫んだ。 「このまま水を増やしたところで、空の上のアルビオンには届かないわ! 私たちがクロムウェルから指輪を取り戻すから、今は水を引いて!」 水の精霊は震えると、言葉を発した。 「分かった。お前たちを信用しよう。お前たちの寿命が尽きるまで、我はここで待ち続けるとする」 そう言って再び湖底に沈もうとした水の精霊を、それまでの会話中は興味がなさそうにしていたタバサが呼び止めた。 「貴方に訊きたい事がある。貴方は人間に『誓約』の精霊と呼ばれている。それはなぜ?」 「単なる者よ。我とお前達では存在の根底が違う故に、お前たちの考えを理解できぬ。だが、思うに我は形は不定なれど、存在は変わらぬ。月が幾度交差しようともこの水とともに在った。変わらぬ我の前ゆえ、お前たちは変わらぬ何かを祈りたくなるのだろう」 タバサは頷いた。跪くと、眼を閉じ、手を合わせた。キュルケはその肩に優しく手を置いた。 それをみてギーシュは何か思いついたように薔薇を掲げた。 「ふむ……じゃあ、僕もルイズに永遠の」 そこまで言ったところでギーシュは水柱の中に閉じ込められた。 「ごぼぼ!? ごぼ!?」 「全く……早く薬を作らなくちゃ……」 誰が魔法を使ったなどはもはや書くのも野暮であろう。モンモランシーは不機嫌そうに横を向いていた。 タバサは祈った後、何かを期待するような眼でじっとリゾットを見上げた。 その表情から何を求めているか、察することは可能だったが、リゾットはあえて尋ねる。 「……何だ?」 タバサはしばらく黙って見上げていたが、やがて首を振った。 「何でもない」 呟いてリゾットに寄り添い、シルフィードを呼び出す。 「……悪いな。期待に答えられなくて」 リゾットが呟くと、タバサも僅かに頷いた。 「いい。無理を言った」 平坦に、しかしどこか寂しそうに、そう呟いた。 学院に戻ると、モンモランシーはすぐに解除薬の調合に取り掛かった。 「出来たわ! ふう! しっかし、やたらと苦労したわねー!」 額の汗をぬぐいながら、テーブルのるつぼから小瓶に液体を取り分ける。小瓶をタバサに、るつぼをギーシュに手渡した。 「はい、二人とも、そのまま飲んで」 ギーシュはそれに鼻を近づけると、顔を離した。 「何だか凄い臭いがするね。でもルイズ、僕はこれを飲んだところで、君への思いは変わらないと思うよ?」 臆面もなくそう言い放つギーシュに、ルイズは苦笑を浮かべる。 「そうね……。そうだったら私ももう少し真剣に考えるんだけど。でもそうじゃないわ」 「じゃあ、僕はこれを飲んで確かめてみよう」 言い放つと、ぐいっと飲み干した。一同の視線がギーシュに集まる。 味が残るのか、飲み干したギーシュは顔をしかめていたが、やがて憑き物が落ちたように表情に冷静さが戻ってきた。が、次の瞬間、焦りに満ちた表情に変わる。 「ご、ごごごごごめんよ、モンモランシー!」 ガンダールヴもかくやという速さで振り向くと、いきなりモンモランシーに土下座をした。 「僕ともあろうものが、君を一瞬でも邪険に扱ってしまうなんて、なんて謝ればいいんだ!」 必死で謝るギーシュだが、モンモランシーは背を向けた。 「ふ、ふん。何よ、今更謝ったって遅いわ!」 惚れ薬を飲ませたのはそもそも彼女なのだから、許すのはやぶさかではないが、簡単に許すのはプライドにかかわる。そんな想いから、思わずすげなくしてしまう。 そんなモンモランシーの態度にギーシュはがっくりと肩を落とす。 「ああ、そうだね。許してくれるには僕は罪を重ねすぎた。お詫びにここで果てるとしよう」 杖を振ってナイフを錬金する。ぎょっとしてルイズが止めに入った。 「ちょ、ちょっとギーシュ! 止めなさいよ!」 「いいんだ、ルイズ。君にも迷惑かけてしまったね。本当にすまない」 などといいながらナイフを喉に押し当てようとする。 「もう! リゾット、ギーシュを止めて!」 「ああ……」 本当につきたてるようには見えないが、恋愛というのは意識的にしろ、無意識的にしろ、駆け引きも必要である。何より、丸く収まるならそれに越したことはない。ギーシュの芝居に乗り、リゾットはギーシュの手を押さえる。 その間に、ルイズがモンモランシーを説得にかかった。 「モンモランシー、反省してるんだから、いいでしょう? そもそもあんたが惚れ薬を作ったんだし、許してあげなさいよ!」 「そもそも自分の彼氏くらい自分で繋ぎとめておきなさいよ」 呆れたようにキュルケが言う。フーケもギーシュを哀れんで、一言述べる。 「殿方には時に飴も必要かと」 「な、何よ。まるで私が悪いみたいじゃない」 モンモランシーが呟くと、リゾットが冷静にツッコミを入れた。 「根底の原因はギーシュにあるかもしれないが、今回の件に限って言えば、お前にも責任があるだろう」 苛立ちをあらわすように爪を噛んでいたが、諦めたように両手を広げて降参の意を表した。 「……もう、しょうがないわね。許してあげるわ!」 「ああ、モンモランシー……。君は女神のように慈愛に溢れているね」 感極まってモンモランシーによろよろと近寄るが、彼女はギーシュを手で押し留めた。 「その代わり! もう金輪際、浮気しないこと! 私と付き合ってる間は私だけを愛すると誓いなさい」 「もちろんだよ、モンモランシー!」 勢い込んで答えるギーシュは、モンモランシーの眼に光るものをみつけて驚いたように硬直した。 モンモランシー自身も無自覚だったようで、ギーシュの驚いた顔をみてからそれに気付き、自分の目元を慌てて拭うと、照れ隠しのように横を向いた。 「次はないからね!」 「分かったよ、モンモランシー……」 ギーシュが神妙に呟き、優しくモンモランシーを抱きしめた。 その光景を見て、ルイズは安心したように呟く。 「やっと元の鞘に納まったわね」 「男に言い寄られるなんてあんたにはないだろうし、いい経験だったんじゃないの?」 キュルケが笑みを浮かべてからかうと、一息ついたような表情のルイズはスカートの裾をいじりながら、つまらなさそうに返した。 「別に……。好きでもないのに言い寄られても迷惑よ……」 割と真剣にそういったので、キュルケはそれ以上の追求は避けた。 「そう。まあ、とにかく、次はタバサね。……どうしたの?」 タバサはじっと瓶に入った液体を見ていた。キュルケに声を掛けられると、ルイズに視線を移す。 「な、何よ。まさか飲むのが嫌とかいうんじゃないわよね?」 その言葉に軽く首を振ると、タバサは呟くようにルイズへ告げた。 「しばらく、彼と二人にして欲しい」 「え……な、何で?」 「お願い。これが最後」 重ねてタバサはルイズに頼み込んだ。 先を歩くタバサについて、リゾットは火の搭の屋上に来ていた。円形の搭の屋上は、階下に通じる階段に続く穴以外、何もなく、胸ほどの高さの石の塀がぐるりと搭を囲んでいる。 屋上に着くと、リゾットは夕日のまぶしさに一瞬、眼を細めた。タバサは塀まで歩き、杖を抱えて夕日に眼をやっていた。赤い日がタバサの青い髪を照らし、いつもとは違った色合いにしている。特に何も言わずに黙っていたため、リゾットもタバサの横でじっと夕日を見ていた。何もかもが異質な異世界で、太陽の輝きだけは地球と変わらない。 じりじりと落ちていく夕日を、二人で並んでしばらく眺めていたが、沈黙を破ったのはタバサだった。 「……私の世界に色はなかった」 リゾットは一瞬、タバサに眼をやったが、黙っていた。タバサが続ける。 「母様がああなってから、私の眼に映る世界は灰色で、何もかも冷たく感じた。 どんな景色も、この夕陽でさえ、寒々しい光景にしか見えなかった」 タバサはじっと夕陽を見つめながら、一言一言を噛み締める様にして言葉を紡ぐ。 「しばらくして、キュルケやシルフィード、それに貴方と出会って、私の世界は少しだけ色を取り戻した。だけど……貴方と過ごしたこの数日間ほど、世界が輝いていたことはない。私はこの光景を一生覚えていると思う」 リゾットが買った銀細工のしおりを取り出すと、それを愛しそうに撫で、リゾットに向き直る。 「ありがとう。貴方のお陰で私は世界が冷たくないことを思い出せた」 「……薬の効果だ」 「そうだとしても、貴方は私を不必要に忌避しなかった。貴方に冷たくされていたら、私はきっと耐えられなかったと思う。だから、感謝を」 「改まって礼を言うことでもない……。お前には……色々助けられている」 リゾットはタバサから視線を逸らしてそういった。暗殺稼業から離れ、大分経つが、改まって礼など言われることには未だに慣れない。 「それに……。あまり一生、なんて言葉はこの場合は使うな。お前の母親を治して、目的さえ果たせば、お前はいつだって色のついた世界を見られるようになる。この景色が普通になるさ」 「…………」 不意にタバサはリゾットに抱きついた。精一杯の力を込めてリゾットを抱きしめる。 「おい……? どうした?」 タバサは答えない。表情は見えなかったが、悲しんでいるようにも喜んでいるようにも見えた。リゾットはどう対応すればいいのか困惑していたが、しばらく躊躇した後、どうにも出来ずに夕日に目をやったまま、突っ立っていた。 そのまましばらく二人はじっとしていた。太陽が地平線から僅かにその頂点を覗かせるのみとなった頃、ようやくタバサはリゾットから離れた。 「これで、終わり……」 名残惜しげに呟くと、タバサはポケットから解除薬を取り出した。 「今のこの『私』にとって、貴方は全て。だから、これを飲んでその想いが消えるなら、『私』も同時に消える。でも、それが貴方の、そして私のため。……せめて、見送って欲しい、他の誰でもない、貴方に。貴方だけに」 瞳に僅かに不安をにじませ、タバサはそう懇願した。 「……分かった。だが、そう深刻に考えるな。惚れ薬の効果があろうがなかろうが、俺たちが仲間だということに変わりはない。そうだろう?」 そういうことではないのだが、タバサは無表情に頷く。寂しさはまだあったが、その心の中には確かに暖かいものがあった。 そしてタバサは薬を口に運ぶ。味に関してはタバサは少し変わった味覚をしているため、特に抵抗はない。そのまま飲み干した。 「……治ったか?」 しばらくしてからのリゾットの問いかけに、タバサは頷くと、リゾットに背を向けた。 「どうした?」 「…………解除されても記憶は残る」 ああ、とリゾットは納得した。 「照れてるのか」 ほんの僅かにタバサは頷いた。 「そうか。じゃあ、元に戻れるような話をしよう。お前の母親だが……。水の先住魔法で心の均衡を失っているのだったな?」 タバサがまた頷いた。 「なら、アンドバリの指輪で治せるんじゃないか?」 リゾットがそういうと、タバサは振り向いた。その顔にはほんの僅かだが驚愕の表情が浮かんでいる。 「やはり、あのときの話をあまり聞いていなかったか。アンドバリの指輪は先住魔法の水の力の結晶らしい。なら、治療に使えないか? どう思う?」 タバサはしばらく考え、やがて頷いた。 「可能性はある」 「そうか……。希望が出てきたな。だけど、焦るなよ」 「大丈夫」 タバサの所属するガリア王国はアルビオンに対して中立を宣言している。そんな国の皇帝に対して下手な行動を起こせば、人質同然の身のタバサの母親に危害が及ぶのは想像に難くない。そこはタバサも分かっていた。 「私もアンドバリの指輪について調べてみる」 気がつくと、周囲はすっかり暗くなっていた。夜の訪れと同時に気温も下がり始めている。 「タバサ、中へ戻るぞ。遅くなった」 リゾットに続いて階下へ向かいながら、タバサは胸の辺りを押さえ、空を見上げた。夜空には赤と白の月が輝き、タバサを優しく照らしていた。 騒動の終結を報告しようと、二人が寮搭の三階まで来ると、廊下で待っていたルイズがじろりと視線を投げかける。 「……遅かったじゃない」 「悪いな。……どうして外に?」 ルイズの顔が途端に赤くなった。 「いや、何かその……ギーシュとモンモランシーが盛り上がってたから、邪魔しちゃ悪いかなって……」 どうやらギーシュとモンモランシーは上手く和解できたようだ。 「それで外で帰りを待っててくれたのか。気を使わせて悪いな」 「べ、別にあんたたちのためじゃないわ……。キュルケとフーケも待ってるから、さっさと中に入るわよ!」 ルイズが自室の扉を開けると、中でフーケとキュルケが待っていた。キュルケはサラマンダーのフレイムに餌をやっていたが、中に入ってきたタバサに笑いかけ、手を止める。 「おかえり、タバサ。どう? ダーリンとの仲は進展した?」 「別に……」 興味津々のキュルケにそっけなく答え、椅子に座ると、本を広げる。代わってリゾットが口を開く。 「解除薬は飲んだ。これで……今回の一件は落着だ。フーケ、これが今回の報酬だ。ご苦労だった」 金貨の入った袋を受け取ると、フーケは大きく伸びをした。 「これで終わりですか。それでは、『お嬢様』。私はこれで失礼いたします。 ミス・モンモランシには、急用ができて実家に先に戻ったとでも言い繕っておいてください」 「うん、わかった。一応、その……お疲れ様」 「いいえ、仕事ですので。それに……」 眼鏡を本来のものに取り抱え、ルイズににやりと笑みを返す。 「私は楽しかったよ。あんたにもいいところがあるって分かったしね。威張り散らすだけの我が儘娘って評価は改めておくよ。貴族の義務って奴も心得てるようだし、友達思いのところもあるじゃないか」 そういってフーケがルイズの頭を撫でまわすと、ルイズは顔を真っ赤にした。 「ちょ、ちょっとやめてよ!? 髪が乱れるじゃない! それにあんた、私をそんな目でみてたわけ!?」 う、と呻いてフーケは視線を逸らす。 「ところでリゾット」 「答えなさいよ!?」 キュルケに何があったのか問い詰められていたリゾットが振り返った。 「何だ?」 「明日からしばらく休み取らせてもらいたいんだけど。ちょっと遠出して、耳にした変な噂を調べてみようと思ってさ」 「変な噂って何?」 好奇心の強いキュルケが尋ねる。誤魔化された形になったルイズは不満げだったが、次のフーケの一言でその不満は吹き飛んだ。 「アルビオンのプリンス・オブ・ウェールズが生きてるんだってさ。しかも、皇帝クロムウェルと行動をともにしてたって話でね」 「ウェールズ皇太子が?」 思わずルイズは呟き、リゾットと顔を見合わせる。二人ともウェールズが死んだ瞬間を見たわけではない。だが、あの状況からの脱出が絶望的だったことは明らかだ。何より、ウェールズ自身があの場で死ぬことを決めていた。降伏も逃亡も捕縛もよしとしないはずだ。 そのとき、キュルケが大声を上げた。 「そうよ! 思い出したわ! そのウェールズ皇太子よ! あたしも見たわ!」 キュルケはゲルマニアの皇帝が就任したとき、その顔を見たことがあった。 彼はそのとき国賓席で高貴で魅力的な笑みを振り撒いていた。今まで綺麗さっぱり忘れていたのだが、名前が出たことで思い出したのだ。 「どこで見た?」 「タバサの実家へ向かう道の途中ですれ違ったわ。タバサとダーリンは絵本を読んでたから気付かなかったけど、確かそこの剣は一緒にみたわよね? 戦死されたって公布が出てたけど、生きてらっしゃったのね」 「そういえばそうだったな。ありゃあウェールズだった」 デルフリンガーも思い出し、キュルケに同意する。だが、ルイズは力なく首を振った。 「……生きてた? そんなわけ……ないわ。まして、クロムウェルと一緒にいるなんて……」 「アンドバリの指輪」 タバサが本を広げたまま呟く。 「なるほど。死体を操ってるってわけか……。もしくは本当に生きているなら洗脳されているか……」 スタンド使いの中にはそういう能力がある者もいる。魔法でも似たようなことができる可能性はあった。 「大変! リゾット、行くわよ!」 「え? ちょ、ちょっと!?」 ルイズはフーケの言葉が終わらないうちに走り出す。トリステインからガリアへの道ですれ違ったということは行く先はトリステインなのだろう。 狙いがアンリエッタであることは明白だった。本当に生きていたとしても、クロムウェルと行動を共にしていたという噂が本当なら、やはりアンリエッタは危険だ。 「待って! どういうこと!?」 「姫様が危ないわ!」 リゾットとルイズを除く三人はアンリエッタとウェールズの関係について知識がないため、ルイズのいう危険について理解ができない。 部屋から飛び出そうとしたルイズだったが、その足が宙を蹴る。『レビテーション』の魔法だった。 「ちょっと、邪魔しないでよ、タバサ!」 「私も行く。こっちの方が速い」 タバサは本を閉じ、窓を指し示した。いつの間に呼び寄せたのか、窓からシルフィードが顔をのぞかせている。タバサがシルフィードの背に乗り、ルイズとリゾットもそれに続く。 出発しようとすると、キュルケとフーケも乗り込んできた。 「お前ら……。危険だと……」 警告しようとしたリゾットの唇に指を当て、キュルケは微笑んだ。 「今更そういうことを言うのは野暮よ、ダーリン。あたしも行くわ……。でも事情は説明してよね」 一方、フーケは何か思いつめたようにぼそぼそと呟いた。 「まあ……、ウェールズにはちょっとばかり、因縁があるんでね。これは仕事じゃなくて、個人的な行動ってことで頼むよ……」 そういわれてはそれ以上、リゾットも何も言わない。タバサがシルフィードに声をかけ、夜空に風竜が舞い上がった。
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「アンタは平民で使い魔、私は貴族で主人。以上」 場所をルイズの部屋に移し、椅子に座り、足をくみ、言った言葉がこれだった。 だがそれで分かったことは何ひとつ無く、 主人という新たな単語が形兆の心の中にある『分からない事メモ』に追加されただけだった。 「ここは何処なんだ?」 続けて最初にしたのと同じ質問をする。 「トリステイン魔法学院よ」 これで分かるでしょ?といわんばかりの態度、もちろん有名なので大抵の人はこれで分かるのだが、 「つまり何処なんだ?」 形兆には分かるはずもなかった。 「知らないの?あんた何処の平民よ?」 「平民?何だそれは?さっきの貴族とか言う言葉と関係があるのか?」 「そうよ、ってそんなことも知らないの?あんたって相当頭悪いのね」 いつもなら弟の方が言われる事を言われ、少しヘコむ。が、すぐに気を取り直して質問を続ける。 「平民と貴族の違いは何だ?」 「魔法を使えるのが貴族で、そうじゃないのが平民よ、例外もあるけどね」 「魔法だと?」 「そうよ」 ルイズは子供でも知っているような常識すら知らない使い魔の頭の悪さに…… 形兆は自分の心のメモと質問の答えを合わせ、自分の立場を理解し始めて…… 頭痛を起こした。 する方とされる方、両方が頭痛を起こしながら続いた質問を終え、 形兆は一つの『決断』をした。 自分の状況をルイズに話す、という決断を。 そして話し終わった時のルイズの反応は 「ふーん」 という冷たいものだった。 予想外の反応に驚きながらも話を続ける 「元の世界に帰る方法に心当たりは?」 「知らないわよそんなの」 「知らないだと?じゃあどうやっておれを召喚した?」 「サモン・サーヴァントでよ」 「それでおれを帰すことはできないのか?」 「無理よ、そんなの、召喚するだけだもの」 「それでも試す価値はある」 「サモン・サーヴァントはね、使い魔がいるうちは使えないの」 「つまりこういうことか?『おれが死ななきゃ使えない』」 「Exactly(そのとおりでございます) 」 このようなやり取りが続いていき、会話が終わる頃にはルイズが普段ならもう寝ている時間になっていた。 肝心の形兆がこれからどうするか、というところでは 「アンタは使い魔なんだから私に尽くしなさい」 といって聞かなかった。 形兆も使い魔にならなければ衣食住の世話をしない、ということで、渋々ながらも使い魔になることで落ち着いた。 もっとも、このやり取りだけで二時間を消費していたのだが。 そして寝るためにルイズが服を脱ぐ、正々堂々と隠しもしないで、 「おれに見られて恥ずかしくないのか?」 と形兆が言っても 「は?何で?アンタ使い魔でしょ?」 という言葉だけで着替えを続けるルイズ。 『自分には人権がない』 形兆はそれを心のメモに付け加えた。メモするのはこれが今日最後になることを祈りながら。 そして人権が無いということからルイズの次の言葉を予想する。 「アンタは床で寝なさい。毛布くらいは恵んであげるわよ」 予想どおりは気分が悪かった。 「あと、これ洗濯しときなさい」 そういって投げてよこされる衣服。 形兆のやることは掃除、洗濯、雑用といわれていたのでこれも予想どおりだった。 寝る前に洗濯道具の場所を聞こう、そう思いルイズの方を見たが、すでに寝ていた。 仕方なく形兆は床に横になり毛布を被って、状況を整理してみた。 ・ここは異世界 (月も二つあったしおそらく確定) ・スタンド攻撃の可能性はおそらく無い (こんな回りくどいことをする必要が無いから) ・魔法がある (頼んでもルイズは見せてくれなかったが) ・自分の生死も不明 (生きている気はするのだが…) ・自分のスタンドは無い (一度死んだから?)(死んでいるから?)(それ以外ということも?) ・元の世界に帰る方法もない (分からないだけであって欲しい) ・自分は使い魔で主人はルイズ (イヤだが仕方が無い) こんなところだろうか。 整理してみて自分の状況がヤバイことを再確認する。 せめて下四つの内一つでも何とかなれば大分楽になるのだろうが、今はどうしようもない。 とりあえず明日は洗濯のためにも晴れることを願いながら、形兆は眠りについた。 To Be Continued ↓↓
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前ページ次ページS.H.I.Tな使い魔 「あんた誰?」 康一が目を覚ますと、不機嫌そうな顔で覗き込んでいる女の子と目があった。 白人である。多分13~14歳といったところだろうか。それはもう映画で見るようなとびっきりの美少女といっていい。服装は白いブラウスに黒のプリーツスカート。ここまではいいのだが、その上から黒いマントを羽織っている。 康一はなんとなく、以前見た映画で出てきた、吸血鬼のことを思い出した。彼女のマントには襟がないので白くて細い首が見える。よし、どうやら吸血鬼ではないようだ。 半分寝ぼけた頭でここまで考えて、はっと康一は跳ね起きた。 「ここは・・・どこ!?」 「質問に質問で返すなんて平民の癖に生意気ね・・・もう一度聞くわ。あんたは誰なの?」 眉根を寄せて更に身を乗り出す女の子の迫力に、康一はなんとなく気おされてしまった。 「ぼ、僕は広瀬康一。日本人ですけど・・・。」 「ニホンジン?なにそれ、国の名前のつもり?」 康一はめんくらった。いくらなんでも日本をしらないなんて!白人の人がいるし、ここはまだイタリアのはずだけど・・・。 風が頬を撫ぜた。青臭い草原の香りがした。康一があたりを見回すと目の前の女の子のようにマントを着たたくさんの少年少女がものめずらしそうにこちらを見ている。今日はハロウィンかなにかだろうか。って、そんな馬鹿な・・・。 「ルイズ、『サモン・サーヴァント』で平民を呼び出してどうするの?」 誰かがそういうと、まわりからくすくすと笑い声が聞こえる。 しかし目の前の少女は肩をいからせ、顔を真っ赤にして怒鳴り返す。 「う、うるさいわね、キュルケ!ちょっと間違っただけよ!」 「ちょっとだって?はーて、ルイズの魔法が間違えなかったことなんてあったっけなー?」また別の誰かが揶揄するように言うと、人垣が爆笑した。 一方康一は混乱する頭を必死に整理していた。 「(僕はさっきまでイタリアにいて・・・。そうだ、変な鏡のスタンドに引きずり込まれたんだった。・・・じゃあ、ひょっとして僕は『まだスタンド攻撃を受けている』・・・・?でも、なんだか様子がおかしいぞ?)」 知らない場所で、見たこともない格好の人たちに囲まれ、しかし自分には傷一つないようだ。こんな妙なスタンド攻撃があるだろうか。 ルイズと呼ばれた女の子は、そばに来ていた中年の男性(やはりマントを着ているしおまけに杖まで持っている!)に訴えた。 「コルベール先生!もう一度召還させてください!これは何かの間違いです!」 「うーむ、気持ちは分かるが・・・ミス・ヴァリエール。『使い魔』の召還は原則として一度きりの神聖なる儀式なんだよ。自分の『使い魔』に不満があっても、やり直すことは認められていない・・・」コルベールと呼ばれた男は清々しいほど物寂しい頭を掻いた。 康一は使い魔ってなんだろう。と首を傾げた。まさかその使い魔というのが自分のことを言っているとはまだ思い至らない。 「で、でも『使い魔』が平民だなんて聞いたことありません!」ルイズはなお言い募る。 「だが、平民を『使い魔』にしてはいけないという法もないからね。可哀想だが監督者として一度した召還をなかったことにするなんて許すわけにはいかないよ。それとも今回の『サモン・サーヴァント』はあきらめるかね?」 「そんな・・・『使い魔』がいないと、進級できないのでしょう!?」 「そうなるね。だが僕としてはそれが精一杯の譲歩だ。さぁ、選びなさい。この平民を『使い魔』にするか、あきらめて留年するか!」 ルイズは目に涙を浮かべ、しばらく歯を食いしばって悔しげにコルベールを睨めあげた。しかし覚悟を決めたように康一のほうに振り返る。 ぎょっとする康一にずかずかと近づくと肩を左手でドンと押した。ちょうど立ち上がろうとしていた康一が尻餅をつくと、その上にのしかかるようにして跨ってくる。 「ちょ、ちょっと君・・・!」康一が顔を赤らめて後ずさろうとするが、動かないでと真剣な目で言われ、動けなくなってしまう。 ルイズは諦めたように―半分自棄になったように―目をつぶると、手に持った小さな棒のようなものを康一の顔の前で振った。 「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、我の使い魔となせ」 鈴のような声で、呪文のようなものを唱え始めた。 すっと、杖を康一の額に置いた。 そして、ゆっくりと顔を近づけてくる。睫毛が長い、まるで西洋人形のようだ。 「ちょ、ちょっと君、なにを・・・」ごくりと生唾を飲みながら、思わず仰け反る康一の肩をルイズの左手が引き寄せる。 「動かないで・・・」 「いやでも、僕には恋人が・・・」 だからやめてくれ、と最後まで言い切ることはできなかった。 「いいからじっとしてなさい!」と言うやいなや、えいやっとその小さな唇が押し付けられてきたからである。 唇に感じる柔らかい感触に康一は固まってしまった。 「(ああ・・・なんてことを・・・・)」 思わず息を止めて目を閉じる。心臓が早鐘のように走り出す。 「(これはラッキー!って思えばいいんだろうか・・・。でも僕には由花子さんが・・・)」 ルイズが唇を離す。 ぷはっと止めていた息を吸うと、離れ際わずかに女の子の甘い香りがした。 「終わりました。」 ルイズはその場で立ち上がり、顔を真っ赤にしてコルベールに言う。 「『サモン・サーヴァント』は何回も失敗したけど『コントラクト・サーヴァント』はきちんとできたね。」 コルベールは嬉しそうに言った。 康一はまだ顔を赤くして混乱していた。 「ななな、なんでキスしたの!?というか君は誰で・・・あーもう、さっぱりわからないよ!!」 ルイズは少し潤んだ瞳で叫ぶ。 「うるさいわね!あんたはわたしの使い魔になったのよ!わたしだって嫌だけど・・・あんたが出て来ちゃったんだからしかたないでしょ!!」 康一はそれに言い返そうして、そのとき、突如として左手の甲に激痛が走った。 「ぐわああぁぁぁぁぁ!」 まるで焼き鏝を当てられているようだ!康一は左手を抱えて悶え苦しんだ。 みると手が光り、なにか文字のようなものが刻まれていっている。 「(そうだ、油断した・・・やはり僕は『まだスタンド攻撃を受けている』!!)」 コルベールと呼ばれた男性が、何か言いながら、ゆっくりと近づいてくる。自分が何をされているかは分からないが、このままではやばい! 康一は覚悟を決めた。戦わなければならない! そして呼ぶ。自らの半身、『魂のヴィジョン』(スタンド)の名を。 「エコーズACT3!その男を攻撃しろォー!!!」 前ページ次ページS.H.I.Tな使い魔
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几帳面な性格をしているために、先に聞いてきた向こうの質問に答えた形兆だったが、 こっちが答えたのだからあっちの方も答えるだろう。という彼の期待はあっさり破られた。 「ニジムラ ケイチョウ? 変な名前」 そう言ってはげ頭の中年の男の方に振り向き、何か話し始めた。 召喚のやり直しやらこれは神聖な儀式であるのでそれは出来ないなど、よく分からない事を話している。 まだ少し混乱している頭で自分はどうなっているのか、お前も自分の名前くらい言え、 などと言ってみたが無視された。 それにさっきから周りの奴らの笑い声が聞こえてくる。 どうなっているのか分からなくなり頭を抱える形兆だったが、そこであることに気づいた。 自分は生きている。 確かに自分はあの時死んだはずだ。それは確かなことだった。 だが自分は今生きている。これも確かなことである。 自分が生きているのか分からない、こんな状況は初めてだ。 「バッド・カンパニー!」 警戒してスタンドを出そうとする、だが何も起こらない。 自慢の軍隊が出て来ないのだ。アパッチや戦車はおろか、歩兵の一人も出て来ない。 やはり自分は死んだのだろうか?そうするとここは地獄か?だが地獄にしては綺麗な所だ。 不審に思いさっきよりも目を凝らして周りを見渡し事態を把握しようとする。が、 「あの平民なにを叫んだんだ?」 「イカレてるんじゃあないか?」 「ゼロのルイズの使い魔だしな」 不審に思われているのは自分だった。 周りを観察しながらこれがどういうことなのか考えているうちに 自分名前を聞いてきた桃色の髪の女がこっちにやってきた。 「あんた、感謝しなさいよね。貴族にこんなことされるなんて、普通は一生ないんだから」 そういって手に持っていた杖を振る。 「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール」 「それがお前の名前か?」 「五つの力を司るペンタゴン」 「ペンタゴン?アメリカ国防総省のことか?」 「この者に祝福を与え」 「祝福?ありがとう、と言えばいいのか?」 「我の使い魔となせ」 「使い魔?魔法使いみたいなことを言うな?」 几帳面にルイズの言葉に反応を示す形兆。偶然だが半分は正解を言い当てている。 次は何を言われるんだ?そもそも何を言っているんだ? 少々混乱しながらも形兆がそんなことを考えていた次の瞬間! キスをされた。 完全に不意打ちをくらった形兆は驚き、ルイズから顔を離しさらに距離をとって身構える。 「何のつもりだ?ルイズ」 当然の疑問。だが、 「呼び捨てにするんじゃないわよ!ご主人様でしょ!」 (どうしてコイツはおれの話を全く聞かないんだ?そもそもご主人様って何だ?) 几帳面な分突発的な出来事に強くない形兆は混乱の度合いを強くする。 そして形兆が次のことを考えようとして、急にきた体の熱さに邪魔された。 「なにィ~~~スタンド攻撃かッ!?」 「騒がないで、『使い魔のルーン』が刻まれているだけよ」 「『使い魔のルーン』だと!?」 それで自分に何をしたのかを聞き出そうとした時、熱は無くなった。 (一体何なんだ?分からない事が多すぎるぞッ!?) 混乱だけが強くなっていく形兆に追い討ちを掛けたのは責任者らしき中年の男だった。 「フーム……珍しいルーンだな。 よしじゃあ今日は解散!みんな良くやった!」 そういってその男は『飛び』去っていく。周りにいた者もみな飛んで城のような建物の方へ行く。 それをみて形兆は 「一体どういうことだ?」 としか言えなかった。 もう何がなんだか分からなかったが、 あの中年の男の態度や使い魔という単語から自分に危害を加えることは無いだろうと判断し、 何故か未だに残っている自分の唇を奪った女に話しかけた。 説明しろ。と To Be Continued ↓↓
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グゥゥゥゥ~~ッ 大きな音を立ててギアッチョの腹が鳴る。 「チッ・・・」 何も食べずに食堂を飛び出してきたのだ。腹が減るのは当たり前で ある。他に食うものがないというのなら、彼もあれを食べる事に抵抗は ない。しかし、あれがルイズ―主から出されたものだというのなら、 例え飢え死にしようが絶対に!口をつけるわけにはいかない。 ギアッチョはそう決意していた。 「しょぉぉおがねーなぁぁあ」 ギアッチョの口からは無意識に戦友の口癖が飛び出していた。実際の ところ問題は切実である。早いところ安定した食糧確保の方法を 考えなければ飢え死には免れない。 ――貴族のガキ共から日替わりでメシを奪うか? と思ったが、食堂には入りたくないし、毎日そんなことを続けていれば 間違いなく問題が起こる。 「プロシュートの野郎ならよォォーー 今ここで奴らを皆殺しにしそうな もんだが」 自分以上にキレっぱやいものはいないということに気付いていない ギアッチョである。 「あ、あのー・・・」 ギアッチョの後ろで声がした。 「ああ?」 色んな要因でかなり気が立っているギアッチョは、気だるげな声を 上げて肩越しに後ろを見た。 そこにいたのはメイド服を着た黒髪の少女だった。 「何か・・・用か?このオレによォォ~~~」 「す・・・すいません その・・・失礼かとは思ったのですが 食堂での お二人のお話を聞かせていただきました」 ――大人しそうなツラしやがってよォォーーー 堂々と盗み聞きって ワケかァァ~~? ギアッチョが発する殺気の量が更に上昇する。それに気付いたのか、 少女は慌てて本題を口にした。 「そっ、それでですね!あの、よろしければ厨房に来ませんか?賄い食 ですが料理をお出しします」 「・・・・・・」 ギアッチョは少女に向き直ると、その眼を覗き込む。少女はちょっと 驚いたようだったが・・・瞳に嘘は感じられなかった。 「・・・いいだろう 世話にならせてもらうぜ」 罠ではなさそうだ。ギアッチョは素直に好意に預かることにした。 「・・・こいつはうめぇな」 「貴族の方々にお出しする料理の余りで作ったシチューなんですが、お口に 合われたならよかったです」 「ああ マジによォォ~ 助かったぜ ルイズのヤローに出されたエサは ブチ割っちまったからな・・・」 「凄い握力なんですねギアッチョさんって・・・ 私ビックリしました」 どうやら、シエスタにはトレイ自体は見えていなかったらしい。単純にトレイを握り つぶしたのだと思っているようだった。 「ところでよォォーー 何故オレを助けた?」 ギアッチョにはそこが解らなかった。ルイズの物言いから察するに、ここでは 貴族と平民には絶対的な上下関係がある。今オレを助けたことで貴族――ルイズの 恨みを買う危険性もあったはずだ。するとメイドの少女――シエスタと名乗った―― はニコリと笑って言った。 「ギアッチョさんは平民でしょう?平民が平民を見捨てるような時代になってしまえば、 私達はおしまいです。貴族の圧政に耐えるためには、私達平民は常に団結して いなければならないんです」 ――何も考えてない小娘かと思ってたがよォォー・・・ ギアッチョは少し感心した。 「それに・・・ 貴族にあんなに堂々と逆らう人なんて初めて見たんです それが その・・・なんていうか 格好よくて」 シエスタは少し照れたように眼を伏せる。こう言われてはギアッチョも悪い気はしない。 「なるほどな・・・気に入ったぜェーーシエスタ! 改めて自己紹介するがよォォー オレの名はギアッチョだ ここに来るまでは、遠いところで暗殺稼業をやってたッ 気に入らねえ奴がいるならよォォ~~ いつでも暗殺してやるぜ」 「暗殺・・・!?ギアッチョさんて 殺し屋さんだったんですか!?」 普通なら、ここで殺人者に対する拒絶が心の中に芽生えるであろう。しかし シエスタは、というよりシエスタ達は違った。純粋に「凄い」と思ったッ! だって平民である。単なる平民がそんな凄まじい技量を持っている!シエスタと 話を聞いていた厨房の平民達は、そんな男が自分達の仲間であることに「誇り」と 「勇気」を感じた!! 「『我らの剣』ッ!オレぁおめーが気にいったぜ!!おら!こんな余りモンで よかったらいくらでもおかわりしてくんなッ!!」 マルトーというらしい四十がらみのコック長がガシッとギアッチョの肩を抱く。 厨房は一転熱気に包まれた。当のギアッチョはというと、これがまんざらでもない ようだった。ギアッチョが生きていた頃は、チーム以外の人間と親しくするなど ありえないことだった。知っての通りリゾットチームは暗殺を生業にしていたが、 その報酬だけでは毎月生きていくこともかなわなかった。ギアッチョを含めて メンバーはそれぞれが色んな表の仕事を転々として何とか糊口をしのいでいた のだが、彼らは暗殺に対する報復などに四六時中警戒しなければならない身で ある。敵の刺客はどこに潜んでいるか分からない。仕事仲間にさえも気を許す ことは出来なかった。彼らが心を許せる相手は、リゾットチームの仲間のみ だったのである。 ――ここは・・・違う ここではギアッチョはただの平民だ。暗殺者という職業、ボスへの反逆者という 立場、命を狙われる身という立場・・・、ここではその全てがリセットされている 事にギアッチョは気付いた。今、ギアッチョは真っ白だった。―もし。もし永遠に イタリアへ帰れないのなら。ここでの行動全てが――トリステインの平民としての ギアッチョの境遇を決することになる。それを理解したギアッチョは、自分が 突然何も無い宇宙の真ん中に放り出されたような眩暈を感じていた。 ――どォォォすりゃいいんだよッ!!!クソッ!!! ギアッチョは――自分がどうするべきなのか解らなくなってしまった。昨日、 ルイズはギアッチョを元の世界に帰す方法について、「私は知らない」ととても 悲しげな声で答えた。その声はまるで、そんな例は古今東西ありえないとでも 言外に告げているかのようにギアッチョに聞えた。 ――どォすりゃあいいんだッ!!ええッ!?教えてくれよッ!!リゾット!! プロシュート!!メローネ!!ホルマジオ!!イルーゾォ!!ソルベ!! ジェラート!!ペッシッ!!ええおいッ!!答えてくれよッ!!! ギアッチョがいくら問いかけても――彼らは答えてはくれなかった。 ギアッチョが心中凄まじい葛藤をしていたその頃、シエスタはルイズによって 厨房の外に呼び出されていた。 「・・・あ、あの・・・何の御用でしょうか・・・ミス・ヴァリエール・・・」 ギアッチョを厨房に招いていることは、ルイズにはとっくに気付かれていた ようだった。ルイズはうつむいたままシエスタに言う。 「・・・これからも あいつに料理を出してやってくれないかしら」 「えっ!?」 シエスタは驚いた。そもそもギアッチョ用にあの貧相極まる食事を出させた のはルイズなのだ。まさかギアッチョの剣幕に怯えたわけでもあるまい・・・ シエスタは内心首をかしげながらも、 「・・・分かりました、ミス・ヴァリエール。ご用命とあらば、喜んでお世話を させていただきます」 と答えた。ルイズは「よろしくお願いするわ」とだけ答えると、返事を待たず 歩き出した。ルイズは見ていた。厨房の窓から、馬鹿騒ぎする料理人達と その輪の中心にいるギアッチョを。 ――あいつの居場所は・・・私の隣じゃない ルイズは悲しげにそう呟いてその場を後にした。 ←To Be Continued?
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「父上!母上!俺に力を!」 コロコロコミックにて連載されていた樫本学ヴ氏の漫画『コロッケ!』の登場人物 (登場キャラや技名、果てはタイトルまでほとんどの元ネタが料理名から来ている。 知らない人には料理漫画と間違われやすいが、バリバリの能力系バトルマンガなので誤解なきよう)。 …え?『ジョジョ』5部のスタンド使い?それはこの人です。 緑のバンダナ(実はグランシェフ王国の国旗)、濃い緑色の服とズボンを着用した灰色の髪の少年。 グランシェフ王国の王子であり、主人公コロッケのライバル、後に親友となる。 CVは『戦国BASARA』シリーズの真田幸村などを演じた 保志総一朗 氏。 主に蹴り技を得意としており、得意技は108発の蹴りを高速で叩き込む「108マシンガン」。 ストーリーが進むにつれて、追尾性のあるエネルギー弾、「魂(ソウル)キャノン」、腕から光り輝く剣が生える「王国セイバー」も追加された。 特に魂キャノンはどこかに当たるまで追尾するというとんでもない性能であり、コロッケを苦しめた。 グランシェフ王国はバンカーサバイバルから3年前に占領されており、リゾットは王国の再建を目標にバンカーサバイバルに出場。 そんな経歴もあり、バンカーサバイバル編では非情かつ冷徹な面が多かったが、 裏バンカーサバイバル編ではテトに「前よりも表情が変わるようになった」と言われ照れているシーンもあるなど、 作中の性格は連載に応じてかなり変わっている。 原作では仲間に入ったり離脱したりと忙しかったためか、アニメオリジナルエピソードやゲームにおいても、 ちょくちょくコロッケ達のピンチを救ってはしばらく同行し、去るという展開を繰り返していた。 『3』では途中から終盤まで牢屋に入っていたけど 原作ゲームでの性能 全体的に使いやすい性能。他のキャラが通常攻撃が3回連続で出せるのに対し、リゾットは4回も通常攻撃が出せるという待遇。 「魂キャノン」の追尾性能もきっちりと再現されており、非常に優秀な飛び道具となっている。 その分、リゾットのウリである「108マシンガン」は発動までが非常に遅いという悲しい性能。 幸いにもCPU相手なら何とか当てる事が出来るが、対人では死に技である。 シリーズを通して「魂キャノン」「トリニティバレッド」「∞(アンリミテッド)シューティングスター」 「スナイピングゼロ」「108魂キャノン」などの使いやすいゲージ技を所持しているが、 『2』では強制戦闘でタンタンメンと、『3』ではそこまでレベル上げが出来ない環境でゴーヤ&アンチョビと戦う事になるため、厳しい戦いを強いられる。 (尤も、タンタンメン戦はリゾットを戦闘メンバーに入れなければ三人で戦える上、ゴーヤ戦はコロッケを選択する事も出来る。 ただし、タンタンメン戦の場合は1巡目だとコロッケ、リゾット、キャベツの丁度三人のため、強制的にタイマンになる)。 MUGENにおけるリゾット olt-EDEN氏(旧・ゼータ氏)による『コロッケ!3』の原作再現仕様が存在する。 こちらもは元のゲームが小学生向けだったためか技が少ない。 A:ジャンプ(↑でも可) B:攻撃 B(二回目):攻撃2 B(三回目):攻撃3 B(四回目):攻撃4 (ダッシュ中に)B:ダッシュアタック X:ガード Y:108マシンガン(吹っ飛ばし攻撃、ゲージ1000消費) →Y or ←Y:魂(ソウル)キャノン(ゲージ2000消費) ↓Y:トリニティバレット(ゲージ2000消費) X+Y:∞(アンリミテッド)シューティングスター(体力半分以下で発動可能、ゲージ6000消費) B+Y:108魂キャノン(体力半分以下で発動可能、ゲージ6000消費) (以上、Readmeより引用) タンタンメン、T-ボーンと比べて技は多い方。 「108魂キャノン」「∞(アンリミテッド)シューティングスター」のおかげで弾幕勝負が出来るものの、 体力制限がある上にゲージ消費量が多いので連発出来ない。 残念ながら「魂キャノン」の追尾機能は再現されてないが、高火力&飛び道具のスピードが速い事から主力級の技性能である。 また、ジャンプ強は垂直に蹴りをかまし、その後後退するというもの。 他の格ゲーでは見かけないこの動きは、空中の緊急回避に向いている技である。 同氏の他の『コロッケ!』キャラとは違って12Pカラーは未搭載だが、バンカーランクとゲジマユスイッチは健在。 体力制限が解かれていないため弾幕ゲーは出来ないが、魂キャノン、トリニティバレッドといった高性能の技が使い放題になるだけでも強い。 カオス同盟氏による外部AIも存在する。想定ランクは並~狂下位。 永久スイッチがあり、B1→B2を延々と繰り返してくる。 氏曰く「B4まで同じ距離でAIにやらせたらB3が出ずにすぐにB1から始めて永久が完成していた」そうな。 出場大会 きっと永久vs即死大会2 正義vs侵略者!都道府県陣取りゲーム 【MUGEN大祭】特盛りシングルトーナメント
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仕込み 材料 米or無洗米 バター コンソメ(チキンorビーフが好ましいなければ適当に) ターメリック(あれば) 作り方 1、お米3合を軽く洗ってから炊飯器にセットします 2、そこにバター大匙1、コンソメ、ターメリックを入れて炊飯器のスイッチを入れます 3、沸騰?てか煮だって着たらしゃもじで混ぜます これをしないと味付けが偏る 4、カチ! て音がしたら炊飯器のスイッチを切る カチ!ってなると蒸らしにはいるから リゾットに使うお米に必要な「歯ごたえ」がなくならないようにこの時点で切る! これで完成 タッパーに入れるなりして保存してちょ 注意点 カチ!っとならないものは 水が表面に出てない状態で、側面などがグツグツなっている時 が丁度いい トマトリゾット@ツナ imageプラグインエラー ご指定のURLはサポートしていません。png, jpg, gif などの画像URLを指定してください。 材料 仕込んだお米3合の4分の1 トマト缶 ツナ缶 オリーブオイル 塩 1、オリーブをたらす 40ccとか言われてるけど適当でwww 2、そしたら弱火にしてトマトを2分の1入れて潰していきます 3、あらかた潰し終わったらツナを入れます(ノ ゜Д゜)ノ ==== ┻━━┻ ドバー 4、混ぜ終わったらご飯を手でほぐしながら入れて混ぜていきます(あっためちゃやーよ?) 5、んで、塩を適量入れてまた混ぜて混ぜてー 6、完成 パセリとかでも振りかけようか チーズリゾット 材料 チーズイロイロ オリーブオイル 仕込みご飯 牛乳150 1、オリーブをたらす 2、弱火にして牛乳150cc チーズイロイロをいれて煮込みます 3、全部解けたかなーってなったらご飯を入れてかき混ぜます 4、塩をかけてまた混ぜるー 6、完成っと パセリとか緑っぽいものを振りかけよう ソーセージの赤ワインリゾット 材料 ソーセージ オリーブオイル 仕込みご飯 赤ワイン 1、オリーブを少量たらす 2、ソーセージを細切れにして炒める 3、ご飯を入れる 4、赤ワインを入れる 量は大匙2くらい?(自分は適量でやりました) 5、弱火でかき混ぜる 6、塩を入れて味を調えながら、かき混ぜる 7、完成っと ツナ@トマトリゾット だろ。どう考えても逆 -- みみなし (2008-12-26 13 21 15) なるほ、気になったら修正しといてくれ -- 背後 (2008-12-27 22 51 46) 戸谷にボールペン借りた -- あけおめ (2009-01-08 15 04 42) 名前 コメント このページへのアクセス数 total - today - yesterday - このページのタグ一覧 料理 背後